映画『半世界』ネタバレ解説&評価 タイトルの意味することは?
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映画『半世界』

稲垣吾郎が良い

みたいなことでそこそこ話題になってたし、キネマ旬報でも2019年の日本映画2位とかなってたので気になってはいた。(まあ1位が『火口のふたり』というクソランキングだったが)

 

だがメインビジュアルが焚き火を3人で囲んで話をしているようなイメージだから、なぜか勝手に会話で映画が進む1シュチュエーション映画を想像して観る気が起きなくなっていた。

 

あと阪本順治監督も勝手に苦手意識を持っていて…

代表作の一つに福田和子事件を元にした『』があるが、藤山直美の顔が苦手すぎるのと、小さい頃、福田和子事件が怖すぎて、結局観れずにいた。

そんなこんなで最初に観たのが『カメレオン』。

主演の藤原なんちゃらがほんとにひどくて…

すっかり観るのを避けるようになってしまっていた。

 

今回ほんとなんとなーく『半世界』を再生してみた。

 

あれ…面白いぞ

 

すっかり態度を変えた僕は阪本順治デビュー作『どつたるねん』から観ることにしたのだった!

 

てなわけで映画『半世界』、面白かったのでご紹介。

 

映画『半世界』とは?(まだネタバレなし)

 

2019年製作/120分/G/日本
配給:キノフィルムズ

スタッフ
監督
阪本順治
脚本
阪本順治
撮影
儀間眞悟

キャスト
高村紘/稲垣吾郎
沖山瑛介/長谷川博己
高村初乃/池脇千鶴
岩井光彦/渋川清彦
岩井麻里/竹内都子
大谷吉晴/小野武彦
岩井為夫/石橋蓮司

解説
「エルネスト」「人類資金」の阪本順治監督のオリジナルストーリーで、稲垣吾郎が主演を務めた人間ドラマ。稲垣が主人公となる炭焼き職人の紘を演じるほか、長谷川博己、池脇千鶴、渋川清彦ら実力派キャストが共演する。山中の炭焼き窯で備長炭の職人として生計を立てている紘の前に元自衛官の瑛介が現れた。突然故郷に帰ってきた瑛介から紘は「こんなこと、ひとりでやってきたのか」と驚かれるが、紘自身は深い考えもなく単に父親の仕事を継ぎ、ただやり過ごしてきたに過ぎなかった。同級生の光彦には妻・初乃に任せきりの息子への無関心を指摘され、仕事のみならず、反抗期である息子の明にすら無関心だった自分に気づかされる。やがて、瑛介が抱える過去を知った紘は、仕事、そして家族と真剣に向き合う決意をする。2018年・第31回東京国際映画祭コンペティション部門に出品され、観客賞を受賞した。

『半世界』のあらすじ

舞台は三重県の山深い街。

家業の炭焼き職人として備長炭を製炭する39歳の紘(稲垣吾郎)は、帰郷してきた幼馴染である瑛介(長谷川博己)と再会する。
自衛隊を辞めてきたという瑛介はすっかり無口で人が変わったよう。
紘はそんな瑛介を無理矢理家に招く。
実家の中古車販売店を継いでいるもうひとりの幼馴染、光彦(渋川清彦)を交え、食事をしていると反抗期真っ盛りの息子、明(杉田雷麟)が帰宅、紘と口論になる。

家に閉じこもる瑛介を心配し、無理矢理世話を焼く紘だが、家業の炭焼きは業績が下がり家計は苦しくなっていた。
更に、同級生のいじめを受ける明の現状や心情に全くトンチンカンな紘は、妻、初乃(池脇千鶴)にも呆れられてしまう。
紘は明のことを光彦に相談するが、「おまえは明に関心がない」と核心を突かれ喧嘩をしてしまう。

紘は瑛介を連れ出し、炭焼きを手伝わせ始める。

その日の夜、紘、瑛介、光彦は飲みに行き、思い出の海で語り合う。

ようやく昔のようになってきた瑛介は、炭焼きを手伝い続けると共に、明に自衛隊の格闘術や紘の過去を教える。
紘は瑛介が手伝うようになったことで、自分が炭焼きに対し、どこか逃げていることに気づき始めた。

仕事や家族にちゃんと向き合おうとしていた紘だったが、そんなとき光彦の中古自転車販売店で事件が起き、瑛介の過去が明らかになる…

 

地方の田舎町で生きる紘たち3人の友情を軸に、39歳という人生の折返しに近づいた彼らの、人生を見つめ直す姿を描いた人間ドラマである。

 

『半世界』の監督、キャスト

監督、脚本は『どついたるねん』(1989)、『』(2000)、『KT』(2002)など代表作多数の阪本順治。

先述した通り僕はそんなに作品を観ていないが、かなり多作で、原作モノもオリジナルも手掛けている。

『半世界』は阪本順治オリジナル作品である。

阪本監督の前作がオダギリジョー主演エルネスト もう一人のゲバラ』(2017、キューバとの合作)だったため、海外撮影が多く、次作は日本の自然の風景の中で撮りたいと思い企画したとのこと。

 

主演紘役は元smap稲垣吾郎

阪本監督は元々構想していた2本の企画を1つにして、新たに稲垣吾郎であてがきして脚本を作ったらしい。

 

幼馴染の瑛介役は『シン・ゴジラ』(2016)、『散歩する侵略者』(2017)の長谷川博己

けっこう映画でも観るのだが、俳優としては特別印象はなくて、どうしても鈴木京香の顔ばかり浮かんでしまう。

顔が薄いせいなのかなあ。

スラリとしてかっこいいんだけど、なんかいまいちつまらない。

 

もう1人の幼馴染光彦役は渋川清彦。

旧芸名KEE。

もう映画出まくり俳優だ。

ちょっと強面でやさぐれているが、お調子者みたいな役をやらせたら天下一品だ。

 

そして紘の妻・初乃役は池脇千鶴

デビュー当時はその見た目もあって清純派女優だったが、『ジョゼと虎と魚たち』あたりから生活感高めな役も好演するようになる。

特に『そこのみにて光輝く』(2014)の地方で家族を養うために体を売らざるを得ない女の役は、すさまじく人生にくたびれた感が出てて印象的だった。

『ジョゼと虎と魚たち』の時はそのヌードを見て、池脇千鶴ファンの友人も僕もちょっと残念な気持ちになったものだが、『そこのみにて光輝く』はかなりエロくてよかった。

 

映画『半世界』キャスト紹介

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映画『半世界』ネタバレ解説&評価

『半世界』4.0/10うんこ (10うんこ=クソ映画)
いじめっ子のサングラス姿が面白すぎる映画

 

このシーンは悲しいシーンなのに笑ったなあ。

ああいう背伸びしたやつは、どこにでも1人くらい実在するからおもしろい。

「全然似合ってねーぞ、サングラス!」

て言いたくなるけど、たいてい腕力強くて調子乗ったやつだと誰も言えないという。

 

映画『半世界』いじめっ子 サングラス

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それはさておき、期待してなかった分、かなり楽しめた。

退屈しそうだなあとか思ってたけど、全く眠くならなかったし、勝手な思い込みに反して会話劇じゃなかったことがまず良かった。

映画全体として良かったというよりは、好きな要素が散りばめられていたからかもしれない。

幼少の頃からの友達との切っても切れない関係や、父子の対立に師弟の関係が影響与えるとか。

 

あとポスターの火は焚き火じゃないのね。

全然海のシーンに出てこないから?となったが、よーく見ると炭でした。

納得。

死のショック性

最後に主人公、紘が死ぬのに、陰鬱な空気が全くないので、鑑賞後も気持ちが落ちたりしない。

周囲の人間の落ち込んだり悲しむ様子よりも、その死を受けてどう生きていくかを重要視して描いているからだと思うんだけど、やっぱり”死”ってもっと重い方が個人的には好みだ。

別に軽いわけではないんだけど、ショックが少なすぎるのだ。

 

オープニングは瑛介と光彦が何かを掘り出しに行くシーンだ。

そして物語は進み、紘、瑛介、光彦の友情が描かれる。

そうなると、ああ、オープニングに紘がいないってことは、紘の身にこの後なにか起こるんだなっていうのが分かってしまう。

この映画で海は死の香りのするものだし、紘が明とやや和解する岸壁のシーンは死亡フラグが立ちすぎてて、どうなのかなあって思う。

今でもその意図は分からないが、炭焼き中と死の間際に見る、幻想的な森のシーンもなにやら死の香りが漂っていた。

 

映画『半世界』稲垣吾郎 幻想的な夢

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オープニングは狙いなのかなあ。

んー。

 

僕は紘が布石なしに、ほんといきなり倒れてしまう展開の方が、確実に良かったと思ってしまう。

その方がドキッとするし、より紘の生前の存在感が際立って、残された者たちの物語に深みが出た気がするのだ。

なんかそのあたりが弱くて、暗い気分にこそならないが、逆にインパクトが弱すぎてあまり鑑賞後に引っかかるものがなかったかなあ。

あえて死の衝撃、残酷さを避けたのかもしれないが、残された人たちの描写がウェット過ぎなくて良かったので、本当に突然の死でもそのあたりのバランスはとれたと思う。

個人から見た小規模な世界や人生、命をテーマにした作品だけに、ちょっとそこが残念だった。

稲垣吾郎の運動神経

稲垣吾郎って好きでも嫌いでもない存在だった。

smapって解散した今思うと、グループとしてはまあまあ好きだったのかなあって思うけど、個人となると誰も気にならない。

 

今作を見ても正直その印象は変わらない。

まあそんな上手くもないし、下手でもないし。

いや、やっぱりセリフとかはちょっと下手な気もする。

でもそれを上回る不思議な色気はたしかにあって、職人役には向いているのかもしれないと思った。

 

紘という人間は、かなり自分勝手で、自分がこうだと思ったらそれを意地でも通そうとする。

空気が読めないとはちょっと違うかもしれないが、周囲の人間の気持ちを推し量るのが少し苦手なようだ。

そして人の言ったことについ反対する。

この反抗になんか意味があるというか、そういう性分なのだ。

僕もちょっと近いからわかる。

そういう若干冷血に見えるというか、無神経な図太さがある感じは、稲垣吾郎の潔癖な感じというか、ミステリアスな雰囲気にピッタリだったと思う。

 

ただ

ただ一つ、本当に致命的だと思ったのが、

稲垣吾郎は運動神経が明らかに悪いことだ。

smap時代から思っていたことだが、1人だけ飛び抜けてダンスが下手だった。

手足がバラバラというか、操り人形みたいなたどたどしい動きだ。

それが今作でも見事に出てしまっている。

職人には見えないことはないのだが、あのめちゃくちゃな肉体労働をあの運動神経で1人でやっていたなんて設定は信じられない。

映画ってやっぱり肉体表現でもあると思うから、炭焼き作業も、木の伐採も、あの運動神経では画面映えがしなくて残念だった。

 

なんだろ、全部腰が引けてるのかなあ。

あと膝が曲がらないイメージ。

 

長谷川博己に教えるシーンも

え、五郎さん教えるの?そんな腰引けてるのに?

て思ってしまった。

 

改めて今考えてみたら、ちょっと炭焼いてるにしては、綺麗すぎるよね。

汚れてないとかって意味じゃなく、容姿がやっぱ綺麗すぎる気がする。

 

長谷川博己の外部から帰ってきた人間との対比として、もう少し土着的な外見の人の方が良かったのかなあ、なんて思う。

 

まあでも全体としては決して悪くなかったと思います。

一応フォロー。

 

映画『半世界』悪い運動神経

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映画『半世界』キャストのこと

稲垣吾郎以外のことで言うと、長谷川博己はやっぱりつまらなく感じてしまった。

見た目はかっこいいんだけど、それだけというか…

本当に可もなく不可もなくという表現がシックリくる。

自衛隊にしては線が細い気がするし、グローバリズムを象徴するにしても都会的すぎた印象。

 

眼光鋭すぎて、親父殺すんじゃないかと、違う意味で紘に死亡フラグを立たせてくれた、杉田雷麟演じる息子・明との『ベスト・キッド』的なベタ展開は好きだった。

ぽかーんとする明を物ともせず、殺人術を叩き込む姿は笑えたし、食堂でのあまりにも速い頭叩きはこの時代に爽快だった。

にしてもあれだけ素手による格闘術を叩き込まれた明のいじめっ子を蹴散らす方法が、親父がせっせと作った炭を鈍器として使うというのが、良いような悪いような、ちょっと複雑な気持ちになって、それもちょっと笑ってしまった。

映画『半世界』明の鋭い眼光

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渋川さんは安定の渋川さんで、出てくるだけでちょっとニヤけてしまう。

どこまでが脚本通りなのか分からないくらい、地元の人感が出ているのがすごい。

三角形のエピソードのとおり、我が強くて意固地な紘と瑛介の仲を、自分をちょっと犠牲にして取り持ってきたのも想像できる。

まあ、ああいう人はいち早く結婚しているものだから、未婚ていうのはちょっと違和感ある設定だったかなあ。

映画『半世界』渋川清彦の安定の演技

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池脇千鶴は、いい具合に昔可愛かった娘が丸っとしてきた感があって非常に良かった。

きれいに映ることだけしか考えないクソ女優と違って、説得力ある容姿に仕上げていることが好感もてる。

紘が倒れたと聞いた時の、電車で膝から崩れるショットも良かったし、出棺時の「私も一緒に入りたい〜」は胸に迫るものがあった。

と同時に、夫婦間には家業や子供の問題があって喧嘩してるシーンも多いし、結婚して15年以上は経ってそうなので

「え、そんな好きだったんだ」

てちょっと笑ってしまった。

まあ未だにセックスしてたし、夫婦仲は良かったのか。

映画『半世界』おばさん化した池脇千鶴

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それにしても膝から崩れるところを走る電車の外から撮影するのって大変そうだなあって、それが気になってしょうがない。

電車のスピードを落としているのかなあ。

カメラ側も大変だけど、池脇千鶴の崩れるタイミングが一番大変そうだ。

そう何回もできなそうだし。

 

映画『半世界』電車で膝から崩れる池脇千鶴

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タイトル『半世界』の意味

タイトルの”半世界”という言葉自体は、小石清という戦前・戦中時代のカメラマンの作品名からとっている。

これは小石清さんが写真をどうしても撮りたくて、日中戦争に従軍し撮った作品らしい。

本当は勇ましい日本軍の写真を撮るのが役目なのに、中国人のおじちゃん、おばあちゃんや象など、全然関係ないものばかり撮った写真らしく、もうその話自体が面白い。

 

この映画『半世界』本編では、光彦の自動車販売店で暴れたバカたちを、制御しきれない怒りのままに瑛介がボコボコにした後、瑛介が紘に言う台詞が印象的だ。

「お前らは”世間”しか知らない。…”世界”を知らない。」

自衛隊として世界規模で物事を捉え、実際に見聞きしてきたのであろう瑛介は、自分の故郷であり紘の世界である街の暮らしを”世間”と区別した。

 

瑛介は自分の部下が戦争後遺症で入水自殺したことに責任を感じ、苦しんでいる。

夜、幻聴を聞くなど、自身も戦争後遺症なのではという描写もある。

たしかにそういった世界に出た人間でなければ分からない、国と国であったり、他国の内戦など大きな規模の問題がある。

そしてそれにより傷ついてしまう人間がいるという事実もある。

今の瑛介にとってはそれが総てであり、”世界”なのだ。

 

その後、漁船にのる瑛介を心配して会いに行った紘が

「言っとくけどなあ、こっちも世界なんだよ。いろいろあんだよ。」

と言う。

紘は紘で、父から意地で継いだ家業の難しさ、家族との関わりという、紘にとっては大きな問題で悩んでいる。

同じシーンで瑛介は紘に、「部下が死んだのは俺の責任であり、おまえらの責任でもある」といったニュアンスのことを言う。

普段普通に暮らしている日本人にとって、そういった世界的な問題、物事は遠い話すぎて無関心になりがちだ。

そういった日本人の態度が部下の死につながったということだと僕は思った。

だがこれは、小さな世界で生きる人間たちが世界に影響を及ぼしたという事実でもある。

終盤まで瑛介には見えていないが、瑛介が言うグローバルな”世界”とは、紘が言う”こっちの世界”が集まって成立しているのだ。

 

映画『半世界』「こっちも世界なんだよ」と言う紘

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”世界”ときくとつい、瑛介が言っていたような、グローバルな広い意味での世界を想像してしまう。

そして言葉の概念ということだけでなく、特に最近はたくさんの分野で”世界”規模で物事を考えることが大切で重要視される。

実写映画なんかもそうで、特に島国の日本は、よほど世界各国を巡った人でない限りその作品は自分の周りの狭い範囲のテーマとなり、「もっと広い視野を」だとか、「もっと世界とリンクするような大風呂敷を広げたものを」なんてことがよく言われる。

そういうのを聞くと「確かになあ」なんて納得してしまうが、それとは裏腹に”田舎の日常を描いたものすごく狭い世界を描いたものにとても豊かで面白い作品が多くある”、という事実もある。

 

今回この『半世界』を見て、ちょっとそのへんのモヤモヤがスッキリしたというか、それでもいいじゃないかと言われている気がした。

瑛介が言う”世界”はたしかに存在するが、それ以前に田舎であったり、都市のアパートの一室であったとしても、人間が生活している小さな世界も確かに”世界”なのだ。

大きな視点に立てば高等で高潔になった気になるが、紘が言う世界、”半世界”を無視すれば本当に大切なものを見失う、そう言われている気がした。

 

おわりに

色々書いてるうちに、あれ、ほんとに面白かったんだっけ?て思ってしまったけど、もう1回観たいと思っているということは、そういうことなんだろう。

まあそれよりも阪本順治作品をもっと観たいと思えたことが一番収穫だったかも。

バジェットが増えるとつまらなくなるという噂が阪本順治作品にはあるので、小規模作品をオススメします。

 

おわり

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