映画『ノーカントリー』分かりづらいところを解説!ネタバレ感想&評価
(C)2007 Paramount Vantage, A PARAMOUNT PICTURES company. All Rights Reserved.
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あれは忘れもしない2008年…

大学生だった僕は友人とある1本の映画を観に行きました。
なんで観に行ったのかまったく覚えていないのですが、そこまで映画好きな友人ではなかったので、おそらくその年の米アカデミー賞で話題になっていたからなんでしょう。

そこで天から思し召しを受けるような衝撃を受けたのです

なんかあやしい宗教の勧誘みたいですが、しばらく放心状態で動くのを忘れたのを覚えています。

子供の頃から映画はアクションを中心にけっこう観ていましたが、今ほど色々考えて観てはいませんでした。
それでも大学時代の2007年くらいには特権意識で鈴木清順の『ツィゴイネルワイゼン』(1980)を観て、

映画とはストーリーを追いかけて楽しむだけのものではない

と体感していたんです。

そして更に今回ご紹介する映画を通して、人にはストーリーなど全くなくてもただ画面を観続けるだけで気持ちがいい映画というのがあることを知りました。

それが今日ご紹介する『ノーカントリー』(2008)です。

監督のコーエン兄弟作品の中でも最も評価の高い作品です。

あ、『ノーカントリー』はストーリーはちゃんとありますからね。

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まだ観てない人へ『ノーカントリー』の紹介

作品データはこんな感じです。

作品データ

原題 No Country for Old Men
製作年 2007年
製作国 アメリカ
配給 パラマウント、ショウゲート
上映時間 122分

スタッフ
監督 ジョエル・コーエン
イーサン・コーエン
製作 スコット・ルーディン
イーサン・コーエン
ジョエル・コーエン
製作総指揮
ロバート・グラフ
マーク・ロイバル
原作 コーマック・マッカーシー
脚本 ジョエル・コーエン
イーサン・コーエン
衣装 メアリー・ゾフレス
撮影 ロジャー・ディーキンス
美術 ジェス・ゴンコール
編集 ジョエル・コーエン
イーサン・コーエン
音楽 カーター・バーウェル

キャスト
トミー・リー・ジョーンズ
ハビエル・バルデム
ジョシュ・ブローリン
ウッディ・ハレルソン
ケリー・マクドナルド
ギャレット・ディラハント

解説
第80回アカデミー賞において、作品、監督、脚色、助演男優の4部門で受賞した犯罪ドラマ。1980年の米テキサスを舞台に、麻薬密売人の銃撃戦があった場所に残されていた大金を盗んだベトナム帰還兵(ブローリン)と殺し屋(バルデム)の追跡劇、そして2人を追う老保安官(ジョーンズ)の複雑な心情が描かれる。原作はピュリッツァー賞作家コーマック・マッカーシーの「血と暴力の国」(扶桑社刊)。監督・脚色は「ファーゴ」(96)、「ビッグ・リボウスキ」(98)のジョエル&イーサン・コーエン。

監督 コーエン兄弟とは??

監督はジョエル・コーエンとイーサン・コーエン。コーエン兄弟として有名ですね。
現代アメリカ人監督の中でも最も国際的評価の高い1人(2人)です。

過去の作品だと監督兄ジョエル、製作弟イーサンとなっている作品もありますが、アメリカの映画協会の表記上のルールによるもので、ほぼ全ての作品を2人で監督、脚本、編集、製作しています。
不思議ですよね、頭が2つあったら意見まとまらなくてうまくいきそうもないです。
それがこの2人のすごいところで意見の対立自体あまりないそうです。
あっても普通に話し合いで解決。
むしろお互いを知り尽くした2人だからこそ強いのでしょうね。
単純に1人より心強いですしね

コーエン兄弟で他におすすめなのはまずは『ファーゴ』(1996)。大傑作です!
こちらもかなり評価は高く、2014年からはテレビドラマ化されたことでも有名ですね。
その他には『ブラッド・シンプル』(1984)、『ミラーズ・クロッシング』(1990)、『バートン・フィンク』(1991)、『ビッグ・リボウスキ』(1998)、『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』(2014)などなど。
『バートン・フィンク』は世界で最も有名な映画祭カンヌ国際映画祭で最高賞パルム・ドールを受賞しています。

コーエン兄弟の特徴は、作風がすっごい大きな枠でいうと2種類に分けられることですね。

まず『ファーゴ』、『ノーカントリー』のような、基本シリアスなんだけど合間合間でとぼけた乾いたユーモアが展開されるもの。
もう一つはその逆で『ビッグ・リボウスキ』のような基本お馬鹿なコメディなんだけど、合間合間でドキッとするブラックなシリアス展開が待っているもの。
そんな感じです。ほんとざっくりいうと。

「シリアス展開だけど、これはなんか可笑しいぞ。でもこの展開で本当に笑って良いのか?」みたいなクスクス笑いが多いです。
すげー頭いいやつが撮ったお馬鹿なコメディ映画という感じのものが多くて、たまに嫌味な感じもするのですが…。

あらすじ(ネタバレなし)

超ざっくりなあらすじとしては

舞台は80年代アメリカ、テキサス。
狩りをしていたベトナム帰還兵モス(ジョシュ・ブローリン:今作で世界的にかなり有名になりました。『インヒアレント・ヴァイス』(2014)や『ボーダーライン』(2016)などでクセの強い役を演じています)は偶然、人間が討ち合った現場に遭遇する。
それはアメリカ犯罪組織とメキシコ犯罪組織によるヘロイン取引現場の成れの果てだった。
死体が横たわる中、水を欲しがる唯一の生き残ったメキシコ人を無視し、現場から少し離れた場所にあった大金を持ち逃げするモス。
トレーラーハウスで嫁と2人、裕福ではない暮らしをするモスは、金の持ち逃げは危ないと分かっていながらも、その大金に人生をかけることにしたのだった。

しかし無視した瀕死のメキシコ人が気になって眠れないモスは、水を持って現場に戻ってしまう。
そこで姿を目撃されたモスは、メキシコ犯罪組織、アメリカ犯罪組織が雇った殺し屋シガー(ハビエル・バルデム:『BIUTIFUL ビューティフル』なんかが有名ですが、『007 スカイフォール』(2012)の最凶の悪役シルヴァ役でいい味だしてました)から追われることになる。
すぐに家に隠した金を持って逃走を開始するモス。

翌朝ベテラン保安官のベル(トミー・リー・ジョーンズ:日本では缶コーヒー「BOSS」のCMあまりでお馴染みですね)はヘロイン取引現場から、旧知の存在であるモスが事件に巻き込まれている可能性が高いと判断する。
そしてモスの身を案じたベルは、モスとそれを追う正体不明の殺し屋シガーを追い始める。

モスを追うシガー、更にその2人を追うベル。
モスは金を持って逃げ切ることができるのか?
シガーはモスを仕留めることができるのか?
そしてベルはシガーからモスを救うことができるのか?
交わる三者の運命はいかに!!!

といった感じ。

『ノーカントリー』のすごいところ、魅力

画面そのものの気持ちよさ

まずはなんと言っても圧倒的な画の力です。
私はその画の力に魅せられもう50回は観ています。
なにも考えず、画を観ているだけで気持ちいいんです。

テキサスの乾いた空気が体感レベルで感じられる圧倒的なショットの力。
冒頭にトミー・リー・ジョーンズのナレーションと共に流れるテキサスの何気ない景色だけでもう最高です。

なにがそう感じさせるのかはもう感覚的なものなので、なかなか言葉で説明するのは難しいのですが、構図のバランスの良さはもちろん、色合い、重厚感ですね。
特に僕が感じる重厚感の要因は全く白飛びを許さないことですね。
これは実際やってみると映画用のカメラであってもなかなか難しいことなんです。
現場で光を作ることはもちろん、消すこともしなければならない。

画を完璧にコントロールした撮影監督ロジャー・ディーキンスとスタッフ全員の努力の賜物でしょうね。

こちらも併せてどうぞ!

あ、あと多分こんなに画面に力があるのは、メインの登場人物3人が激渋オヤジたちだからでしょうね。

トミー・リー・ジョーンズのしわ

ハビエル・バルデムの鼻穴

ジョシュ・ブローリンのヒゲ

激渋オヤジが西部劇のような雰囲気残るテキサスで画面を静かに駆け回る

加齢臭ムンムン

これだけで最高なんです。

静かな殺し屋シガー

この映画が語られる時まず最初に話題に出てくるのが圧倒的な存在感である殺し屋シガーです。

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とにかく異様なビジュアル…

ほぼ七三のおかっぱなんです。

しかもヅラっぽい

これで殺し屋というんだからギャグすれすれ状態です。日本人なら間違いなくコントになっていたでしょう。
しかしハビエル・バルデムが完璧に演じきりました。ほんとに恐ろしいんです。

ちなみにこの容姿は原作に書かれていないそうです。コーエン兄弟が決めたとか。

そしてこいつの武器が2種類あるんですが、すんごいことになっています。まず新しいし、音がすごくいいんです!

ということで映画史上最も変な髪形で変な武器を使う殺し屋でしょう。

シガーは映画の冒頭からほんとすごいので殺し方を含めて、観てない人にはまず観てほしいです!
このシガーという存在だけでも見る価値ありです!
こいつの殺し方はもちろんシガーにも驚くべきことが起こりますので!

静と動

先に、スリリングなアクション映画を思わせるあらすじを書きました。

しかし基本的にこの映画は静かなんです。

テキサスの風景の中で静かに暮す住人たちの様子はむしろのどかなものです。
特にベル保安官の場面なんてほんと静かです。呑気な気がするくらい。

更に唯一の派手そうな場面、逃げるモス、追うシガーの攻防。なんとその逃走劇の部分ですら静かなんです!

ですがこのモス、シガーが絡んでくる場面は漂う緊張感がすごいんです。まさに私達の心の静と動がコントロールされているようです。

コーエン兄弟はその他の作品ではけっこう派手なカメラワークを好みますが、今作では派手なカメラワークはもちろん、うるさい演出は一切しません。なのに漂う緊張感が半端ない。

力のない制作陣がそんなことをすると映画は途端に退屈になります。
しかし逆にこの映画は緊張感が高まっているんです。すごいことです。

あ、でもベル保安官が作る顔のシワの形によっては緊張感が漂います!

トミーマジック

紹介まとめ

ということでアホなことしか書いてないけど言いたいことは1つ

すごいから観てない人は観て!

はい、それだけです。

では次からはネタバレありの感想を!

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    『ノーカントリー』の感想と解説(ここからネタバレあり!

    ではまずうんこ度(このサイトではどれだけつまらなかったかを10点満点で評価してます。10.0=クソ映画)

    0.5/10 出かかったけど、結局出ませんでしたみたいなうんこ

    要は満点にしたいくらい好きなんです。

    でもここで満点付けると後が大変そうなんでやめときます。

    とにかく好きなんです。なんというか水が合う?みたいな。
    バリバリの田舎生まれの日本人が何を言ってるんじゃと言われそうですが、そんな感じなんですよ。
    でも前世はテキサス生まれかもしれないし!

    『ノーカントリー』のネタバレ

    では前半の続きから。ざっくりと。

    逃走を開始したモスでしたが、実は金の中には発信機が付けられていてシガーにどんどん追い詰められていきます。
    モスは腹に傷を追いながらも、なんとかシガーの足にも傷を負わせ逃げます。

    出血でふらふらになりながら国境付近に金を隠しメキシコに逃げるモス。
    病院で目覚めるとアメリカ側の組織が雇った別の殺し屋カーソン・ウェルズが現れます。
    金を渡せばモスを守ってやるというウェルズでしたが、そんなウェルズもあっさりシガーに殺されます。
    更にウェルズを雇った、自らの雇い主をもあっさり殺害。

    回復したモスはシガーで電話で会話。
    「金を渡せば妻だけは助けてやる」というシガーでしたが、逃げ切る自信のあったモスはそれを断り更に逃走します。

    一方ベルは「モスが本当に危険なんだ」と妻を説得し居場所を聞き出します。
    モスの元に向かうベル。
    しかし時すでに遅し。
    モスは追ってきていたメキシコギャング諸共、シガーに殺されていたのでした。
    その夜現場に戻ったベルは、金の回収に来ていたシガーとニアミスするのでした(?)

    理解できない事件に保安官を引退することを決意するベル。
    一方シガーは約束通りモスの妻を殺害後、車を運転中に信号無視してきた車に突っ込まれ重症を負うのでした。

    そしてベルは妻に自分の見た2つの夢の話をして静かに映画は終わります。

    『ノーカントリー』は何を描いた映画なのか???

    この映画を見たはじめの感想は、その映像、描写に圧倒されながらも

    ハアハア

    ……

    …???

    すごい面白かったがなんか変だったぞ

    こんな感じでした。
    おそらく面白い面白くないに関わらず、この違和感は観た人全員が感じるのではないでしょうか?

    そしてこの違和感こそがこの映画の根幹であり、魅力だと思います。

    まずやっぱり観てて一番ビックリしたのはモスがいきなり死んでいたことでした。

    えーあれだけ感情移入させといて殺されるとこすら見せてくれないのかよ!!!

    て突っ込んだ人多数でしょう。
    モスはこの映画の中でただの泥棒ですが、家族がいますしメキシコ人に水をあげに行くという優しさも持ち合わせています。この映画の主人公はベルなんでしょうが、出番が少ないのでどうしても終盤まで一番出てくるモスに観客は感情移入しがちになります。

    そんなモスがなんの前触れもなく突然殺されている。
    しかもいきなり死体です。

    これは普通の映画からすれば変でしかありませんよね。
    殺されたとしてももうちょっとそのことをクローズアップして引きずりそうなもんです。

    その他には

    ・モス以外も殺されるほぼ全員が一瞬で突然殺される。なのにコイントスの結果助かる人もいます。

    ・そんな人殺しまくりの超人のようなシガーがめちゃくちゃ怪我する。そしてその怪我の様子がやたら詳しく描写される。

    ・ベルとシガーが対峙することなく、ベルの夢の話で突然映画が終わる。

    あたりが引っかかる展開です。

    この映画全編に漂う違和感、やるせなさ、物悲しさこそコーエン兄弟が示そうとしたものだと思います。
    コーエン兄弟自身が言っているのですが、シガーというのは世界の不条理、暴力そのものなんです。
    だから突然なんの前触れも理由もなく人を殺す。
    でもコイントスの結果次第では、つまり運次第では殺さない。
    シガー自身にはコイントスの結果のように何らかのルールがあるのですが、他人からすれば全く分からないのです。
    これは災害などにも言い換えられるかもしれません。
    突然降りかかる暴力、不幸。

    だからその感覚を強調するために、あんなに主人公のように引っ張ったモスの死という結果だけを提示する演出をしたのです。

    そしてそんな世界の死をコントロールしていると思われていた死神のようなシガーにも平等に暴力は降りかかります。
    シガーもまた世界の一部だからでしょう。
    それを強調したくて怪我の様子をしつこく描いたのだと思います。
    面白いのはシガーはちゃんと青信号を守っているにも関わらず事故に巻き込まれるというところですね。

    つまり映画に描かれていたのは、私達が生きている世界に渦巻く不条理な暴力、死の様子なんです。

    どんな状態の人間にも平等に突然不幸が降りかかるのが現実である。

    そんな世界に何も出来ず無力感を感じ見つめる老人。

    現実はきまぐれで無慈悲だとコーエン兄弟は言っています。

    そんなコーエン兄弟のちょっと皮肉な死生観がこの映画のテーマなんです。

    この映画を観て違和感を感じたということは、コーエン兄弟の意図どおりに映画を観たってことではないでしょうか。

    シガーの暴れっぷりと怪我っぷり

    作中、気まぐれに無秩序に人を殺し回る(シガーの中ではルールがある)がその殺しっぷりが最高でした。
    殺しっぷりが最高なんてサイコパスみたいですが、やっぱり最高なものは最高です。

    冒頭の首絞め

    まず冒頭の保安官殺しで我々にこいつはヤバイという強烈な印象を残します。

    保安官が電話している後ろで、手錠を静かにゴソゴソ前に回し近付いてきて首を締めるのが1カットでおさめられているのが素晴らしいです!

    恐怖、緊張感が倍増しています。

    そして首を締めている時の顔がすばらしいんですね

    目ん玉飛び出そうなちょっと笑っちゃいそうな顔…

    演出次第ではあっさりコメディに流れてしまいそうなところですが、そんなことはなく恐怖98%笑い2%くらいにしてくれています。

    しかも首を締められている側の足のばたつかせ方と喘ぎ声の演出がすごいので、ものすごい迫力です。
    よく見ると手錠が首に食い込んで血まで吹き出しているんですね。
    首を締めるのをこんなに丁寧にねちっこく描写した映画ってなかなか珍しいです。

    (C)2007 Paramount Vantage, A PARAMOUNT PICTURES company. All Rights Reserved.

    エアガンとショットガン

    あとすごかったのはシガーの武器。
    ボンベのついたエアガンですね。
    家畜用のものらしく空気を圧縮して飛ばしているのか、それとも先についたボルトを出してすぐ引っ込めているのかは謎ですが、見たことない武器です。

    作中無関係なおじさんの眉間をこれで撃ち抜いたり、ドアのシリンダーを飛ばすのに使っていましたね。
    でも実は作中あまりこれで人を撃ち抜くことはしていないんですね。

    一番使っていた武器がサイレンサー付きショットガン。
    シュボッっという音が最高です。
    すごい快感なんですよね、あの音。
    それを用いて、モーテルで3人組のメキシコ人、雇い主のおっさん、カーソン・ウェルズと次々に殺していきます。
    メキシコ人なんて腕が皮一枚で繋がってる状態になるし、雇い主のおっさんは首に被弾しめちゃくちゃ苦しんでいます。
    ものすごいバイオレンス描写です。
    ただグロいというわけではなくて、どこかコーエン兄弟の死の美学を感じるこだわりの描写に感じます。

    汚れるのは嫌

    ・モーテルで風呂桶に隠れたメキシコ人をシャワーカーテンで返り血を防いで殺す

    ・同じくモーテルで血で汚れた靴下をすぐ脱ぐ

    ・カーソンを殺したあと床に流れてきた血をそっと避ける

    ・モスの妻カーラを殺した後、靴の裏に血がついていないか気にする

    以上のように人殺しまくるくせにシガーは血を浴びたり汚れるのを非常に嫌うというのが面白いです。

    そういえば身なりが几帳面な感じがしますよね。

    こういう細かな描写がしっかりしている映画は面白いです。

    けっこう怪我しまーす

    人間ではないんではないかとさえ思ってしまうシガーですが、普通に怪我します。
    笑ってしまうくらいです。
    モスに撃たれた足の治療の場面の痛い描写は名シーンですね。
    本当に痛そうですもん。
    この異様に長い治療シーンにコーエン兄弟の変態性を感じます。

    終盤ではシガーは青信号で横から車に突っ込まれてけっこう重症を負います。

    腕の骨ドーン

    うわー出ちゃってるー状態です

    地味に気持ち悪いシーンです。
    この突然の事故を初めて見る人はポカーンなんじゃないでしょうか。

    まあ先述したように意味のある事故シーンなわけですが、コーエン兄弟のことだから観客を置いてけぼりにしたくてものすごい力を入れてこのシーンを撮った気がしてなりません。

    シリアスなのになんか滑稽です

    ひたすら重い展開なのにどこか滑稽に感じるのがこの映画のすごいところ。

    というかコーエン兄弟作品のすごいところ。

    おそらく登場人物の表情と会話のズレた間が間抜けさを醸し出していて、滑稽に見えるんだと思います。

    あとはシーンが変わる寸前の無言無表情カットによる映像的な間もその滑稽さを作り出している要因だと思います。

    たとえばシガーが立ち寄る雑貨屋の主人。

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    アメカジたぬき。

     

    あとは命からがらシガーから逃げ、国境を越えようとするモス。

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    グレた犬。

    基本的にみんな眉間にシワ寄せてることが多い印象です。
    怒っているというより困り顔。

    あとは単純に変な顔選手権。
    モスの暮らすトレーラーハウスの管理人のデブおばさんやモスの妻カーラの母親のメガネおばさんなどなど。

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    脇役には本当にいそうな絶妙に面白い顔の人をコーエン兄弟は好みますよね。
    やりすぎない感じがいいです。

     

    そして一番気になっているなんか面白いカットはシガーがカーソン・ウェルズを殺し、モスと電話するシーンが終わる寸前のショットです。

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    この時のシガーのとぼけた顔

    モスとの会話の内容を、本来電話するはずだったカーソンに「だってよ」と伝えているようにも見えます。
    そもそもカーソンの死体を見ているのかも謎です。
    このシーンはどこを見ているんでしょうか。
    最大の謎です。

    全然分かりませんが、なんか面白いショットです。

    光と闇

    私は光と闇を巧みに利用したショットが好きです。
    映画といえば光ですからね。

    まずはモスがホテルでシガーに襲われる寸前のショット。
    ドアの隙間から差す光と闇でシガーの存在を表現し緊張感を高めています。
    すごい単純なテクニックですが、大好きです。

    (C)2007 Paramount Vantage, A PARAMOUNT PICTURES company. All Rights Reserved.

    またメキシコ人に水を飲ませに行ったモスが、ヘロイン取引現場から逃げるところ。
    この時の明け方の逆光によるモスの影と後ろの車の光が素晴らしいショットでした。
    逆光によるシルエットってたまに差し込まれるとものすごく気持ちを動かされます。

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    極めつけは、夜モスの殺害現場のモーテルに1人戻ったベルが扉を開けようとするシーン。
    ついにベルとシガーの対決か!と緊張感がMAXになるところです。
    闇に潜むシガーとシリンダー穴から漏れる光だけで2人の距離感が表現されています。
    そのシガーの様子は必殺仕事人の藤田まことと三田村邦彦と村上弘明を足して3で割った感じでしたね。

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    穴から漏れる光といえばコーエン兄弟のデビュー作『ブラッド・シンプル』を彷彿とさせます。
    弾丸によってできた壁の穴から差し込む光の筋のショットはとてもゾクゾクしました。
    このショットだけでこの映画は観る価値あります。
    未見の人は是非!

    テレビに映る影

    モスの家のトレーラーハウスを少しの時間差で訪れたシガーとベル。
    シガーは牛乳を取り出しソファに座ります。
    このショットのシガーの様子はなんとも不安を駆り立てられます。
    まあいつもシガーは何考えているか分からないわけですが、特にこのシーンは何考えているか分かりません
    そしてテレビに映る自分の影をじっと見つめるのです。

    (C)2007 Paramount Vantage, A PARAMOUNT PICTURES company. All Rights Reserved.

    その後少ししてやってきたベルは牛乳の痕跡から、シガーと同じ行動を取ります。
    ソファの同じ場所に座りテレビを見つめ同じようにその影を見るのです。

    すごく不思議なシーンです

    意味ありげですが良く分かりません。

    でも僕にはなんとなく2人は向かい合ってるイメージが湧いてくるんです。

    ショットの構図的にもベルはシガーと会話しようとしているように見えます。

    シガーはテレビに自分のシルエットが映るのを見て、自分の影がそこに定着してしまうような感覚に襲われたのではないでしょうか。

    吸い込まれるような感覚。

    その後、ベルはシガーが見たであろうテレビの画面にシガーの痕跡を探す。
    そして問う。
    「おまえは何者なのだ」と。

    そんなふうに解釈してみました。

    それかシガーが現実に存在する実体のある人間であることを示したかった。
    そんなこともあり得るかと。

    あとは意外とこれかも。テレビに映る自分の姿見て

    「あれ…俺ってこんなださい髪型だったのかよ……今初めて気づいたわ」

    みたいな。

    ソファ座ってすぐはほんとにそんな顔してるんで見てみてください。

    音楽がない!

    ないってのは嘘ですけど、ほとんどないことに気づきました?

    てかやっぱないな。

    音楽は映像と同じくらい人の心への演出効果があります。
    なので映像自体に力がなくても、音楽が良ければけっこうよく見えてしまうんです。
    音楽様様なんですが、この映画はそれをあえて用いず、静寂やその場で鳴っている環境音を強調させて緊張感を演出しています。
    まあ後で作った音でしょうが。

    これは多分やってみると怖くなるはずなんですよ、作ってる側は。素っ裸で就活するようなもんです。

    あれ、やっぱりなんか伝わらない気がする…よーし、音楽つけちゃおー!てなるはずなんですよ。

    こういうストイックな演出が大好きです。

    『ノーカントリー』の分かりづらいところを解説(私の解釈)

    『ノーカントリー』は観る人によっては「意味不明だ、全然おもしろくない」と怒り出す人までいそうな映画です。

    でも人によっては最後まで突き放されたような映画の展開に、どういうことだったのだろうかと考えることを楽しむ人も多いんじゃないかと思います。
    そういった意味でも何回も見たくなる映画ではないかと思います。

    そもそも原作者のコーマック・マッカーシー作品が難解でありますので(私にはかなり読みづらい)、この映画も様々な解釈、考察がされています。

    ということでパンフレットなどの情報+僕なりの解釈を書いてみたいと思います。

    モスが殺された部屋をベルが訪れた時、中にシガーはいたのか?

    終盤モスが殺された後、ベルはシガーの行動パターンからモーテルに再び戻るのではないかと考えます。
    ベルはモーテルのドアのシリンダーが吹っ飛ばされた穴を前に、ドアを開けるべきかためらいます。
    極限状態、まさに保安官としての魂をかけるべき時でしょう。
    そしてそのためらうベルの様子に、シガーが闇の中に潜んでいるカットが挿入されます。
    ちょうどドアを開けた時、死角になるところです。
    そして意を決してドアを開けるベル。
    しかし中には誰もいる気配がなく、風呂場の窓も戸締まりがされていました。
    ドアを開けたベルの正面からのカットにもドア裏にシガーがいる様子はありませんでした。
    安心してベッドに座るベルでしたが、ダクトの蓋が外されていることに気づくのでした。

    ということでこの時シガーは本当にいたのかどうか、意見が真っ二つに割れるところです。
    意図的に分かりづらくしてるだろって感じしますよね

    僕の見解としては、シガーはいなかったと思います!
    だって完全に見えねーもん。
    いたならさすがにあんな警戒してる人間が気づかないわけないし、風呂場覗いてる一瞬で逃げたなら音しますもん。

    つまりあのシガーの潜んでるカットはベルの極限状態の頭の中ではないかと。
    ベルはシガーの容姿知らねーはずだよ、とかいう輩もいそうですが
    そんなの知らねーです。

    でもきっと見えたんです、ベルには。
    それがあのテレビのカットに繋がっているんではないかと。
    あそこでテレビに映るシガーの残像を見たんではないかと。

    でもその前にシガーは現場に確かに戻っては来ていますね。
    ダクトを開けて金を回収してますから。
    それを知ってるのはシガーくらいですからね。

    ベルが保安官引退を決意した最後の引き金があのシーンだったのだと思います。
    だってあんな妄想するくらいシガーという理不尽な暴力に心が折られかけたのだから。

    タイトル『ノーカントリー』の意味

    邦題「ノーカントリー」だとなんのこっちゃ分からないが、原題は『NO COUNTRY FOR OLD MEN』です。
    これはアイルランドの詩人W・B・イェイツの『ビザンチウムへの船出』から引用されているそう。
    普通に訳すと「老いた者たちのための国ではない」。
    ベルは冒頭のナレーションからモス殺害後の同僚保安官、叔父エリスとの会話まで一貫して、最近の犯罪は理解できなくなってどうしていいか分からないと言っています。
    つまりアメリカは老いた者たちには理解できない国になってしまったという悲嘆のような意味に思われます。

    冒頭のナレーションではそれでも「魂を危険にさらすべき時は”OK”と言わなければならない。”世界の一部になろう”と」と言っています。
    いざ理解できないような犯罪に立ち向かわなければならない時は、死を受け入れて挑み、それを止めてみせよう、といったベテラン保安官の気概のようなものを感じます。
    しかし結果的にベルは今回の事件でなにもすることができませんでした。
    世界の一部になるどころか、そのサイクルにすら入れなかったベルは強い無力感を感じ、保安官引退を決意したのだと思います。

    そんなベルに叔父エリスは、自分の叔父の話をし、「昔から世界は暴力で満ちていた、それは止められないんだ、止めようとしているならそれは自惚れだ」みたいなことを言うのです。
    現実に絶望するベルへの一種の慰めのような言葉であり、この映画の言わんとしていることを代弁したような言葉です。

    先述したこの映画のテーマと併せて総合するとタイトル『NO COUNTRY FOR OLD MEN』とは、”アメリカは老いた者たちには理解できない国になってしまった=世界は不条理で無慈悲だ、そしてそれは私達にはどうすることもできない”という意味が込められていると解釈しました。

    ベルが見た2つの夢

    ベルが最後奥さんに2つの夢の話をして静かに、そして唐突にこの映画は終わります。

    みんな初見では?????になるのではないでしょうか。

    僕も映画に満足しながらも???????????でした。

    なんか温かい感じがした!くらいの感想でした。

    1つ目の夢は

    1つ目の夢
    「どこかの街で親父に金をもらい、それを無くした」

    これは父も保安官であったことを考えると、金=遺産=保安官の魂ではないかなあと思います。

    ベルの家系は父だけでなく叔父エリスも保安官助手だったみたいですし、そうなることが立派な人間の条件であり誇りだったのでしょう。
    そんな保安官を辞めたことで父に対し、後ろめたさがあったのではないかと思います。
    それが夢に表れたのではないでしょうか。たぶん。

    2つ目の夢は

    2つ目の夢
    「2人で昔に戻ったような夢で、俺は馬に乗り夜中に山を越えていた。山道を通って行くんだが、寒くて地面には雪が積もっていて、親父は俺を追い抜き何も言わず先に行った。体に毛布を巻き付けうなだれて進んでいく。親父は手に火を持っていた。昔のように牛の角に火を入れて、中の火が透けた角は月の色のようだった。夢の中で俺は知っていた。”親父が先に行き闇と寒さの中、どこかで火を焚いている”と。”俺が行く先に親父がいる”と。」

    多分この”暗く寒い山道を進む”というのは、ベルが実感した、”すぐ隣に死が存在する不条理な世界を生きること”。
    そこを手に火を持った父親が何も言わず自分を追い越していきます。
    これは父親が、そんな辛い世界であっても必死に生きた生き様をベルに示したのだと思います。
    「おまえと同じように俺も苦しんだんだ」と。

    そしてこの先のどこかで父親が焚き火をして自分を待ってくれていると感じます。
    この先というのはあの世で、この極寒の雪山における火という存在は生きる希望を象徴しているのだと思います。
    つまりこんな過酷な世界で絶望しそうになるが、この先には必ず希望があると父親が示してくれているんだと思います。
    だからそれに向かって強く生き続けなければならないとベル保安官は感じたのだと。

    また何も言わず自分を追い抜いた、そして火を焚いて待っててくれるという暖かい行動は、保安官を辞めたことを責めたりしていない、ということではないかと思うのです。

    これは親から子へ強く命を受け継ぐということが、不条理な世界に対する唯一の抵抗手段であると言っているようにも思えます。
    この映画は最後の最後で世界にはまだ希望があることを私達に示しているのだと思います。というか思いたい!

    ちょっといい意味に捉えすぎですかね?

    おわりに

    長くグダグダと書きましたが、色々な楽しみ方ができる大傑作だと思います。

    映像美に見入るもよし!

    色々考えて深読みするもよし!

    変な顔を楽しむもよし!

    殺戮ショットを楽しむもよし!

    是非何度も観てください!!!

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