映画『ボーダーライン』タイトルの意味は?分かりづらいところを解説
(C)2015 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

 

 

いまいちパッとしないポスタービジュアルと『ボーダーライン』というビデオスルー映画感の漂うタイトル。

 

『灼熱の魂』(2010)という凄まじい映画を見ていなければ、2016年に観ることはなかったかもしれない。

『灼熱の魂』をどこで知って鑑賞したのかは全然思い出せないけど、とにかく胸が容赦なく締めつけられる映画だった。

まあ映画として好きかどうかは別問題だけど。

 

でこの2作品を撮ったのがカナダ人監督ドゥニ・ヴィルヌーヴだ!

ドゥニ・ヴィルヌーヴ

ドゥニ・ヴィルヌーヴ

ドゥニ・ヴィルヌーヴ

 

無意味に何回もただ言いたくなる名前。

覚えたらすぐに誰かに言いたくなる名前。

そしてローマ字入力がむずい。

『ボーダーライン』の後には『メッセージ』(2016)、『ブレードランナー 2049』(2017)と良作を発表し国際的に活躍している。

 

それにしてもカナダってあまりぱっとするところがない。

『キン肉マン』のカナディアンマンしか浮かばない。

 

でもカナダ人て国際的にすごい監督がいる。

我らが倒錯の父デヴィッド・クローネンバーグ、自分よりやや歳下の1989年生まれで俳優もやるグザヴィエ・ドラン

 

グザヴィエ・ドランはちょっと青臭くて好きではないのですが、すごいカリスマ性だとは思う。

まずかっこいい。

 

クローネンバーグはもう説明不要の頭ボンッ監督(わからない方は『スキャナーズ』をお調べください)。

そんなんばっかかと思ったら、その正統進化版のような『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(2005)『イースタン・プロミス』(2007)という傑作を近年になって生み出している。

 

ああ……2人とも素晴らしい名前…

ただただ名前を言いたくなる変な欲望にかられる

 

クローネンバーグ

グザヴィエ

クローネンバーグ

クローネンバーグ

グザヴィエ

 

カナダ人みんな最高

 

『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』というまたまたイマイチな副題がついた続編が公開されたということで、鑑賞前の復習としてもう一度観ることに。

 

映画『ボーダーライン』とは??

作品データ

原題 Sicario

製作年 2015

製作国 アメリカ

配給 KADOKAWA

上映時間 121

映倫区分 R15+

スタッフ

監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ

製作 ベイジル・イバニク

エドワード・L・マクドネル

モリー・スミス

サッド・ラッキンビル

トレント・ラッキンビル

製作総指揮

ジョン・H・スターク

エリカ・リー

エレン・H・シュワルツ

脚本 テイラー・シェリダン

撮影 ロジャー・ディーキンス

美術 パトリス・バーメット

衣装 レネー・エイプリル

編集 ジョー・ウォーカー

音楽 ヨハン・ヨハンソン

音楽監修

ジョナサン・ワトキンス

キャスト

  • エミリー・ブラント ケイト・メイサー
  • ベニチオ・デル・トロ アレハンドロ
  • ジョシュ・ブローリン マット・グレイバー
  • ビクター・ガーバー デイブ・ジェニングス
  • ジョン・バーンサル テッド
  • ダニエル・カルーヤ レジー・ウェイン
  • ジェフリー・ドノバン スティーブ・フォーシング

 

あらすじ
『プリズナーズ』『灼熱の魂』のドゥニ・ヴィルヌー監督が、『イントゥ・ザ・ウッズ』『オール・ユー・ニード・イズ・キル』のエミリー・ブラントを主演に迎え、アメリカとメキシコの国境地帯で繰り広げられる麻薬戦争の現実を、リアルに描いたクライムアクション。巨大化するメキシコの麻薬カルテルを殲滅するため、米国防総省の特別部隊にリクルートされたエリートFBI捜査官ケイトは、謎のコロンビア人とともにアメリカとメキシコの国境付近を拠点とする麻薬組織撲滅の極秘作戦に参加する。しかし、仲間の動きさえも把握できない常軌を逸した作戦内容や、人の命が簡単に失われていく現場に直面し、ケイトの中で善と悪の境界が揺らいでいく。共演にベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ブローリン。

原題『Sicario』の意味は?

原題は「Sicario」。

スペイン語で暗殺者らしい。

 

まあ確かにSicarioってタイトルで日本で公開しても絶対売れないのは分かりきっているから、邦題を付けざるを得なかったのは分かる。

とはいえダサすぎるだろ。

ほんとにポスターデザインといい邦題といいクソだせーな、と毎回思うけど、今回は鑑賞後けっこう悪くない邦題つけたもんだなあと思った。

まあ誰でも思いつくけどね。

 

映画『ボーダーライン』のあらすじ

エミリー・ブラント演じるFBI捜査官ケイトがある誘拐事件を追ってたら、爆発に巻き込まれ同僚二人が吹っ飛ばされる。

で相棒と共にうなだれていたら、ジョシュ・ブローリン演じる足が臭そうなマットが指揮する米国防総省の麻薬カルテル対策の特別部隊に参加して、誘拐事件の主犯と思われるメキシコ麻薬カルテルのボス捕まえようって誘われる。

参加を決意し、飛行機乗ろうとするとそこに同乗したのがベニチオ・デル・トロ演じる絶対ワケありな男アレハンドロ。

正義感に燃えて捜査しようと思っていたケイトだったが、一癖も二癖もあるマットとアレハンドロ、そしてアメリカ-メキシコの国境付近の過酷な麻薬カルテルの現実に振り回され、揺さぶられ辟易していくのだった…

て感じな話。

いいところはまだ飛ばしてます。

映画『ボーダーライン』のキャスト

で監督ドゥニ・ヴィルヌーヴ目当てだった本作だったが、なんと出演者に大好物のジョシュ・ブローリンベニチオ・デル・トロの名前が。

絶対観るしかない。

 

ジョシュ・ブローリンはコーエン兄弟の大傑作『ノーカントリー』でブレイク。

またまたこちらも傑作『インヒアレント・ヴァイス』でも日本語話すへんてこな役を演じている。

 

ベニチオ・デル・トロといえば体の70%が油ギトギトなフェロモンで成り立ってそうな(一応褒めてる)ラテン系俳優。

こちらも『インヒアレント・ヴァイス』出ている。

ベニチオ・デル・トロといえばスティーブン・ソダーバーグの『トラフィック』や『チェ』、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『21グラム』なんかが有名だけど、僕の一押しの作品はトミー・リー・ジョーンズ共演、ウィリアム・フリードキン監督の『ハンテッド』

これは僕の中で近年の実践的欧米アクションの先駆者的作品だと思っていて、公開後わりとすぐDVDでみた高校生の僕は衝撃と共に度肝を抜かれた。

てことで機会があればこの作品についても書きたいと。

 

エミリー・ブラントは…んー興味ないから省略!

こちらも併せてどうぞ!

created by Rinker
コロムビアミュージックエンタテインメント

『ボーダーライン』の解説&評価(ここからネタバレあり

『ボーダーライン』2.0/10うんこ (10うんこ=クソ映画)
女性捜査官青春麻薬挫折映画

 

地味!

とにかく地味!

故に最高なのだ

 

超硬派な骨太なつくりだ。

期待したとおり謎の男ベニチオ・デル・トロ演じるアレハンドロが魅せつけてくれる。

 

かっこいいよー

穴という穴からなんか出ちゃうよー

あんなん闇からでてきたらチビッちゃうよー

て映画だ!

 

派手なアクションを期待した方は残念でしたーて映画だが、まあビジュアルからしてそんな人あまりいないかな。

映画『ボーダーライン』ストーリー、ネタバレ解説

ストーリー的なネタバレをすると、超足臭そうなマットとアレハンドロがケイトを作戦に加えたのは、FBIとしてケイトが持つ権限を利用したかっただけ。

邪魔にさえならなければFBIだったら誰でも良い、だからケイトの相棒はうるさそうだから外したのだ。

更にケイトはマット、アレハンドロにカルテルに通じた汚職警官をおびき出す囮にまで使われ、心身共にボロボロになる。

 

でアレハンドロとマットの真の目的はメキシコ麻薬カルテルのボス(こいつがケイトの追ってる誘拐事件の主犯)ではなく、そいつを従えている行方がマジで分からないメキシコ麻薬王を闇に葬ること。

CIAであるマットはなんとメキシコ麻薬カルテルを潰し、昔のようにコロンビア麻薬カルテル(これがメデジン・カルテル)1党支配体制を復活させて秩序を維持しようとしていたのだった。

 

そしてアレハンドロの正体はコロンビアの元検察官で家族をメキシコ麻薬王に惨殺された復讐鬼であり、コロンビア麻薬カルテルに雇われた暗殺者、つまり彼こそ原題のSicario、暗殺者。

だからお互いに利害が一致したマットとアレハンドロは社会的な善悪を超えて協力する。

全てはアレハンドロをトンネルの向こう側に潜入させるための作戦だったのだ。

 

マットはコロンビア麻薬カルテルという悪であるはずの存在を利用して、社会の秩序を保とうとする。

しかもそれはアメリカという国家の上層部が決めた作戦。

国外での違法捜査の数々に加え、その驚きの事実にケイトは苦悩する。

 

アメリカの若者の麻薬使用は深刻な社会問題であり、その流通経路として大きいのがメキシコからの輸入だ。

そのメキシコというのは社会が不安定で麻薬カルテルが社会のシステムに組み込まれているようなもの。

もちろん本当は撲滅しなきゃいけないけど、いなくなったら国や国民の暮らしは破綻してしまう、要は必要悪。

そして映画では過去にはメキシコ国内の麻薬を支配していたコロンビア麻薬カルテル(メデジン・カルテル)がアメリカ側が把握できる量の麻薬を流通させ、社会は絶妙なバランスを保っていた。

悪いことはもちろんあるけど、そんなひどくなかったって感じ。

 

しかしメキシコ麻薬カルテルが横槍を入れてきたせいで秩序は崩壊。

で今回マットがその秩序を取り戻すべく動いたという話。

アメリカ人ですら顔と名前が覚えられないことも多いのに、メキシコ人の名前の長さと同じような発音のせいで、何が何だかよく分からなくなる。

映画『ボーダーライン』は雰囲気、画作り最高

まず何が良かったかというと雰囲気、画作り。

 

冒頭から何回か出てくる窓から射すカーテン越しの光を捉えた何でも無いショット。

それだけで気持ちがいい。

 

これに無理やり意味づけもできるだろうけど、感覚的なものだろう。

撮影は名撮影監督ロジャー・ディーキンス。

コーエン兄弟など有名監督の撮影を数多く手掛ける売れっ子だ。

 

これが監督の力なのか撮影監督の力なのかは微妙なところもだが(色彩などはポスプロの影響もある)とりあえず気持ちいい画を撮ってくれる。

『ノーカントリー』に通づるところだけど、アメリカ-メキシコの国境付近の乾いた空気を捉えた素晴らしい引きの画が続出する。

もうその場にいるような感覚を覚えるショットだらけだ。


特に夕方、夜明け、朝の空気感が素晴らしい。

ケイトが仲間の兵士に花火見るかと誘われ屋上に上がるところや、作戦決行直前の身支度をしている時の青い空。

映画の空気と相まってヒリヒリする感じもあるが、旅行している感覚すら覚えるいいショット。

映画『ボーダーライン』美しい空の色

(C)2015 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

 

 

また全体的に登場人物に近づきすぎない一歩引いた落ち着いた画作りなのだが、なにか悪いことが起きそうだぞという雰囲気が画面を常に覆っている。

具体的に良かったのは、マットが移送されてきたカルテルの幹部を尋問しようと部屋のドアを開いた瞬間。

手前に扉を開くマット、その奥、画面中心に小さく水を与えられているカルテルの幹部が見える。

ドアを開いた瞬間、事が起きていたって感覚がミソ。

映画『ボーダーライン』恐ろしい予感満載のショット

(C)2015 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

 

 

うわーこれからこいつに絶対おぞましいことが起きるわー

 

て直感的に分かる素晴らしいショットだと思う。

そう思ってたら案の定、アレハンドロが水タンクを持って現れ水拷問プレイを始める。

まあここだけは具体的に何やったかはわからないけど、ゴボゴボと苦しむ音と排水口が映る。

『サイコ』のようだった。

 

あとは冒頭からちょこちょこ映る、生活のために麻薬カルテルにどっぷり浸かった警官が麻薬をパトカーに積んで走り出す斜めの構図のショット。

映画『ボーダーライン』死相だ出ているパトカー

(C)2015 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

 

 

うわあ、警官死にそー、…死相出てるわ、パトカーに。

子供いるのになあ…

ていう美しくもおぞましいショットだった。

 



ラテン系幽霊アレハンドロ

やっぱりこの映画最大の魅力はアレハンドロのSicarioっぷりだろう。

最初はがっしり体型の不気味なフェロモン男だったのに、どんどんその闇の部分が明かされていき、終盤トンネル抜けてからの潔い仕事っぷりだけでも観てよかったと思える。

 

前半は静かな展開だし、ラストも特殊部隊の突入みたいな多数対多数の短めの地味なアクションだと思っていたから、まさかあんな闇の潜入凄腕必殺仕事人みたいな展開になるとは思っていなくて

え、元検事?

とかなり驚いた。

というか驚いたのはその時は原題Sicarioを意識していなかったから、まさかサブのベニチオ・デル・トロが真の主役とは思っていなかったからだ。

 

汚職警官の運転するパトカーの後部座席で闇に紛れる姿なんかもかっこよかった。

顔面圧力が尋常じゃない。

日本人100人分くらいある。

窒息しそうな暑苦しさ。

 

先に書いた水拷問の前に旧知のおじさんからゴーストって呼ばれてたけど、首絞められているケイトを助ける時の

ぐぐぐぬ〜〜〜

て現れ方ほんと良かった、正に幽霊。

映画『ボーダーライン』幽霊のようなアレハンドロ

(C)2015 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

 

マットの頭のデカさ

ジョシュ・ブローリンのだらしなそうな、足臭そうな、小銭をポケットにジャラジャラいれてそうな感じは絶妙だった。

いい加減な感じをだしつつ、その裏には凄まじい覚悟がある、そんな人間を体現していたと思う。

それもそのはず、CIAでありながら悪で悪を制し、秩序を保とうとするのだから。

これまでの人生で凄まじい経験を経て、何かを失い、何かを捨てなければそんな作戦を指揮できるとは思えない。

そんな感じが特別何かをしているわけじゃないのに分かる。

 

それにしても今作のジョシュ・ブローリン

やけに頭でかくないか?

やたらでかい。

なんかバランス悪い。

頭重くて転ぶんじゃないかと心配になるほどだ。

 

髪型のせいなのかな。

だからなんだって言われたらなにもない!

 



 

映画『ボーダーライン』攻めた描写

この映画は暴力やグロ描写を臆さず、全部をちゃんと画として見せようと努めている(水拷問以外ね)。

もうそれだけで映画としての覚悟、誠意を感じる。

もちろん現実はもっと酷いんだろうけど、ギリギリを攻めてるし、水拷問などは敢えて見せないことでこちらの想像力を刺激している。

 

また本作は

映画だから観客の気持ちを考えて、家族持ちや子供は犠牲にしないでおこう

なんてうんこちゃん思考は一切ない。

 

しっかり全員ベニチオ・デル・トロが処分していく。

あれだけ愛すべき家族がいることを序盤から強調して描かれていた汚職警官を

「おまえはいいやつだ」

みたいなこと言っておきながらあっさり撃つ。

 

ラスト、一家団欒をしていた麻薬王の妻、二人の息子。

麻薬王の家族といっても至って普通の弱々しい人間として描かれている。

普通なら家族は殺さないみたなうんこちゃん展開にしてもおかしくない。

 

もちろんアレハンドロはあっさりピュンッ

 

しかも家族から。

ちゃんと麻薬王に見せつけるのだ。

一番陰鬱なやり方。

現実はもっと残酷なんだろうけど。

映画『ボーダーライン』ケイトの役割を解説

この映画はエミリー・ブラント演じるケイトが主人公に据えられている。

よくこの映画の感想でケイトいらなくね?みたいなのを見る

 

いるに決まってるだろ!ばーかばーか!

 

この映画はマット、アレハンドロという僕達が通常考える、正義、善を超えた価値観で異様な世界を生きている人間を描いている。

ケイトという私達と同じ側の世界の人間の目を通して語ることによって、その異様性を強調しているのだ。

 

うすた京介の漫画「セクシーコマンドー外伝 すごいよマサルさん」は花中島マサルという人間の異常さを強調するためにそのすぐ横に藤山 起目粒という平々凡々なキャラを配置している。

魚の大きさをわかりやすくするために横にタバコを置くなんてのと同じだ。

ケイトとアレハンドロのボーダーライン -邦題の意味-

全てを見て知ったケイトはこの超違法捜査、行為を世間にぶちまけると決める。

がそこにアレハンドロが現れ、正規の手続きを踏んだ捜査だったとサインしろと銃で脅され、結局屈服することになる。

そして立ち去るアレハンドロをケイトは撃とうとするが、結局出来ない。

 

この時ケイトの方に振り返ったベニチオ・デル・トロのショットは最高だった。

不穏な空の色を背景にした煽りのアングル。

銃を向けられてもすこしも怯えることも反撃しようともせず、ただただ毅然とケイトを見つめる。

ここでアレハンドロはケイトに「おまえのいる世界と俺がいる世界は根本的に違うのだ、おまえはこちらに来るな」と諭しているように見える。

アパートの二階ベランダ部分と地上という高さを使った人物配置により確かにそこに世界のボーダーラインが見える。

映画『ボーダーライン』はっきり見えるボーダーライン

(C)2015 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

 

 

これは崩壊してしまったアレハンドロの精神のなかの唯一残っていた優しさにも感じられる。

もはや善悪などない人類にもほんの少し希望が残ってると言っているようだ。

あくまで僕の感想だけど。

おわりに -映画のラストを解説-

本作では容赦のない暴力の連鎖が描かれている。

その暴力の果てにアレハンドロとマットは目標通り麻薬王を闇に葬る。

通常の映画であればラスボスを倒したわけだから、観客に達成感、高揚感を感じさせるように作られる。

 

しかし本作で残るのは全く違う感情である虚しさ、やるせなさ、無力感だろう、通常であれば…

 

というのも先述の通り、臆することなく子供であろうと容赦なく始末する、この映画の心意気に僕は

 

ヒューヒュー!!ブラボー!!!でーるとろっでーるとろっ!!!!

 

とサイテーな気持ちになっていたのだった。

 

自分の信じていた正義を貫こうとするも、法の秩序など存在しない世界の存在を知り、それに屈服するしかなかったケイト。

これからも国家という大義のため超法規的な作戦を実行していくであろうマット。

そしてこれからも法の秩序など存在しない暴力渦巻く世界で生きていくであろうアレハンドロ。

三者の生き方を通して、実際、現実世界の一部もこういった超法規的な暴力によって秩序が保たれているんだろうなあと感じた。

本当に善悪の境界など曖昧で誰が正しいなんて言い切れない。

明確な勝者など存在していないから。

でも一つ上げるとすればアメリカという国の上層部なのかなあ。

やはりとてつもない闇を感じる…

 

ラストシーン、アレハンドロに始末された汚職警官の息子がサッカーをしている。

すると突然轟く銃声。

一時みな足を止めサッカーを中断するが、少しすると何事もなかったかのようにまたサッカーを再開し、そのまま静かに映画は終わる。

自分たちのすぐ隣に存在している暴力を当たり前のように感じている一般市民を捉えた恐ろしいシーンだった。

この少年もいつか父親の死の真相を知り、暴力の連鎖というサイクルに組み込まれてしまうのではないかと懸念を抱く。

 

どよーんとした陰鬱なラストだったけど、数々の最高の描写の連続に満足感を得ていた僕は1人

にこにこー

としてエンドロールを迎えたのであった

 

created by Rinker
コロムビアミュージックエンタテインメント