映画『ゴールデン・リバー』ネタバレ解説&評価 最後はどうなる?
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第68回カンヌ国際映画祭で審査員長コーエン兄弟からパルム・ドールを授与された『ディーパンの闘い』(2015)。

 

そのフランス人監督ジャック・オーディアールの最新作はなんと全編英語の西部劇。

 

しかも主演は僕の大好きなポール・トーマス・アンダーソン監督作品の常連、モンスターフェイスのジョン・C・ライリーと近年の主演作にハズレなしのホアキン・フェニックス

 

ジャック・オーディアールは『ディーパンの闘い』で知ったけど、それがすごい良かったので、あらすじも予告も一切見ずに行ってきた。

こんなに期待感高まる作品なのに、僕が観に行った公開2週目あたりは都内では有楽町のTOHOシネマズ シャンテのみで上映というマニアック作品扱い。

一応ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)受賞してるのに。

それでもこの扱いという日本の現実に劇場に向かいながら切なくなった…

 

映画『ゴールデン・リバー』とは???(本作はなるべく情報を得ずに鑑賞することをお勧めします)

作品データ
原題 The Sisters Brothers
製作年 2018年
製作国 アメリカ・フランス・ルーマニア・スペイン合作
配給 ギャガ
上映時間 120分
映倫区分 PG12

スタッフ
監督
ジャック・オーディアール
製作
パスカル・コーシュトゥー
グレゴワール・ソルワ
ミヒェル・メルクト
マイケル・デ・ルカ
アリソン・ディッキー
ジョン・C・ライリー
製作総指揮
ミーガン・エリソン
チェルシー・バーナード
サミー・シャー
原作
パトリック・デウィット
脚本
ジャック・オーディアール
トーマス・ビデガン
撮影
ブノワ・デビエ
美術
ミシェル・バルテレミ
衣装
ミレーナ・カノネロ
編集
ジュリエット・ウェルフラン
音楽
アレクサンドル・デスプラ

キャスト

ジョン・C・ライリー / イーライ・シスターズ
ホアキン・フェニックス / チャーリー・シスターズ
ジェイク・ギレンホール / ジョン・モリス
リズ・アーメッド / ハーマン・カーミット・ウォーム
レベッカ・ルート / メイフィールド
アリソン・トルマン / 酒場の女
ルトガー・ハウアー / 提督
キャロル・ケイン / ミセス・シスターズ

解説
「ディーパンの闘い」「君と歩く世界」「真夜中のピアニスト」などで知られるフランスの名匠ジャック・オーディアール監督が初めて手がけた英語劇で、ジョン・C・ライリー、ホアキン・フェニックス、ジェイク・ギレンホール、リズ・アーメッドという豪華キャストを迎えて描いた西部劇サスペンス。2018年・第75回ベネチア国際映画祭で銀熊賞(監督賞)を受賞した。ゴールドラッシュに沸く1851年、最強と呼ばれる殺し屋兄弟の兄イーライと弟チャーリーは、政府からの内密の依頼を受けて、黄金を探す化学式を発見したという化学者を追うことになる。政府との連絡係を務める男とともに化学者を追う兄弟だったが、ともに黄金に魅せられた男たちは、成り行きから手を組むことに。しかし、本来は組むはずのなかった4人が行動をともにしたことから、それぞれの思惑が交錯し、疑惑や友情などさまざまな感情が入り乱れていく。

映画『ゴールデン・リバー』のあらすじ

一応ざっくりあらすじを。

 

1851年のオレゴン。

兄イーライ(ジョン・C・ライリー)と弟はチャーリー(ホアキン・フェニックス)はシスターズ兄弟として周囲から恐れられる殺し屋。

あたり一帯を取り仕切る提督の元で働く2人に与えられた新たな仕事は、ウォーム(リズ・アーメッド)という会計係を始末すること。

 

シスターズ兄弟より先に出発し、ウォームの行方を追っていた連絡係のモリス(ジェイク・ギレンホール)は、ゴールド・ラッシュ真っ盛りのマートル・クリークで金の採掘者の中にウォームを発見する。

正体を隠しウォームに近づきモリスと行動を共にすることになったモリス。

道中ウォームはモリスにある秘密を打ち明ける。

「実は自分は科学者で、金を見分ける薬を作る化学式を発見した」

提督はこの化学式を狙っていたのだ。

 

やがてウォームに正体がバレたモリスだったが、ウォームの人柄、思想に共感し、彼の夢に将来をかけることにし、提督を裏切るのだった。

 

道中モリスの裏切りを知って急ぐシスターズ兄弟だったが、その動きを察知したモリス、ウォームに囚えられる。

しかし、そこを化学式を狙う更に別の追手に襲撃されてしまう。

仕方なく共闘することになった4人は、追手を始末する。

 

その後ウォームからの提案で金の採掘をすることになったシスターズ兄弟。

始めこそ互いに疑心暗鬼ながらも時を共にするにつれて、妙な友情関係が生まれていく。

 

やがていよいよ河で金を採掘することになった4人に事件は起きるのだった…

 

みたいな感じ。

映画『ゴールデン・リバー』の監督、キャスト

監督・脚本はフランス人のジャック・オーディアール。

『預言者』(2009)でカンヌ国際映画祭グランプリを受賞し、アカデミー賞外国語映画賞にもノミネート。

その後『ディーパンの闘い』 (15)でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞するなど、デビュー作『天使が隣で眠る夜』 (1994)から常に高い評価を受けている。

 

シスターズ兄弟の心優しい兄イーライを演じるのはジョン・C・ライリー。

『ゴールデン・リバー』ではプロデューサーも務めている。

怪物のような熊のような容姿が忘れられなくなる俳優。

数多くの作品に出演しており、代表作はロブ・マーシャルの『シカゴ』。

またポール・トーマス・アンダーソン初期作品の重要俳優でもある。

 

野心家で獰猛なシスターズ兄弟の弟チャーリーを演じるのはホアキン・フェニックス。

当初は故リバー・フェニックスの弟として有名だったが、今では世界を代表する映画俳優に。

近年のホアキン主演作にハズレ無しという感じでそのどれもが変な映画で面白い。

ポール・トーマス・アンダーソン『ザ・マスター』、『インヒアレント・ヴァイス』、スパイク・ジョーンズ『her/世界でひとつの彼女』、リン・ラムジー『ビューティフル・デイ』、トッド・フィリップス『ジョーカー』など。

映画『ゴールデン・リバー』の見どころ

先述したように、僕はほとんど何も情報を入れずに観たのだけど、それが正解だった気がするので、フランス人監督ジャック・オーディアールが挑んだ西部劇で主演はジョン・C・ライリーとホアキン・フェニックスてことだけで観に行ってほしい。

あ、これだけは言っといたほうがいいかもしれない。

アクション超大作ではない!!!

以上。

 

 

映画『ゴールデン・リバー』の解説&評価(ネタバレあり)

『ゴールデン・リバー』3.5/10うんこ (10うんこ=クソ映画)
血なまぐさい西部劇の仮面を被ったキラキラ青春映画

 

もうね、傑作。

鑑賞後の満足度が想像より相当高くて、変な高揚感があった。

 

びっくりした。

こんなにジャンルを逸脱してくるとは思っていなかったから。

これは僕の『ゴールデン・リバー』に対する鑑賞前の心持ちというか、捉え方が大いに関係していた気がする。

やっぱり映画って事前情報だったり鑑賞時の気持ち、年齢なんかが大きく関係するなと思った。

 

僕が今回『ゴールデン・リバー』を観るにあたり仕入れていた情報は

・監督がジャック・オーディアール

・主演がジョン・C・ライリーとホアキン・フェニックスというポール・トーマス・アンダーソン映画でお馴染みの俳優

・どうやら西部劇っぽい

・ヴェネチアで賞を獲得したらしい

とほんとにこれくらい。

予告編さえ見ていなかった。

それが良かった。

何も内容に関して情報を入れなかったおかげで、「ちょっと血なまぐさい静かな西部劇かな」くらいの想定で観れたのだ。

ジャック・オーディアールが監督で、ホアキン・フェニックスが主演だから、普通の西部劇ではないだろうとは思ってたけど、情報が少なすぎてほとんど何も予想できていなかった。

 

また予告を観て、黄金を巡る従来のアクション活劇としての、ジャンル映画としての西部劇を期待してもいなかった、これが本当に良かったと思う。

多分過激なアクション映画を期待して観に来た人は、肩透かしを食らったはず。

『ゴールデン・リバー』の変化球ぶりを肩透かしとネガティブに感じるか、予想を裏切られたとポジティブに感じるかがこの映画の感想、評価の分かれ目な気がする。

映画『ゴールデン・リバー』は本当に西部劇?

正直前半は少し退屈だなあと思った。

僕は歳を重ねるにつれて要所要所で劇的な撃ち合いがあるだけの静かな西部劇が好きになっていた。

だからアクションシーンの少なさは気にならなかったけど、西部劇としては馬の疾走する様子を撮るのが少し下手だなあと思っていた。

躍動感はあるんだけど、それが安くさい感じつながっているというか。

構図やら移動ショットのせいだとは思うんだけど、重厚感が感じられなくて。

ジョン・C・ライリーとホアキン・フェニックスが画面に存在しているのになぜ?というくらい。

またその時の音楽もなんか違うのだ。

西部劇らしくない、どうも気分が乗らない音楽。

全体的に軽い印象を受ける。

 

まあこの時は「フランス人監督だしな」くらいの捉え方だったんだけど、僕の中でこの映画の観方がはっきり分かったのは兄弟が海を見て笑顔を見せるところだった。

それまでの展開も、人を殺すことに少しも躊躇しない最強の殺し屋兄弟とターゲットの追跡劇の割にはスペクタルはないし、兄弟間に流れるゆるやかで穏やかな空気になんか変な映画だなあと思っていた。

殺し以外では穏やかで可愛らしい兄イーライと、凶暴さの裏に酒に救いを求めるなど繊細さが見え隠れする弟チャーリーの日常生活を見ているような展開だ。

 

またこういう時の追跡のターゲットであるやつってブサイクでケチな小悪党みたいなのを想像しがちになるが、ウォームはそれに反してやたら聡明。

そのウォームを追う、シスターズ兄弟の仲間ではあるが仲は悪いジョン・モリスも思慮深い人間として描かれていて、ついには人道的な選択をし提督を裏切ってウォームと行動を共にする。

そんな二組の様子が西部劇につきものな分かりやすい善悪もなく描かれるので、前半は物語の焦点がぼやーとしている印象なのだ。

全然退屈せず観ていられるけど、今ひとつ物足りないかなというかんじ。

 

そんな中盤、過酷な山道を抜けてきたシスターズ兄弟の目の前に果てしなく広がるサンフランシスコの海が現れる。

2人は今まで海を見たことがなかったかのようにその景色に目を輝かせる。

画面的にも一気に開放されるような印象を与えてくれるこのシーンで、「あー、この映画は血なまぐさい追跡劇を描きたいわけじゃないんだな。少し遅い兄弟の青春ものなんだ」と直感的に思ったのだ。

この本筋となんら関係ない寄り道感、旅感がそう思わせたんだと思う。

 

そう感じてからは俄然面白くなった。

物語の停滞、前半の西部劇らしくないショットや音楽も敢えてそうしていたのではないかと感じられたから。

「この映画は純粋な西部劇の系譜に属する作品ではありません」そう冒頭から宣言していたんだなあと。

シスターズ兄弟に訪れた遅い青春

物語の終盤で、おそらくチャーリーは母親を守るために父親を殺したのだと判明する。

酒を飲み暴れる父親に苦しめられた母親と兄弟だが、それにケリをつけたのは弟であるチャーリーだった。

酒に救いを求めてしまう気質などから、父親の血を色濃く受け継いでしまっているのは弟チャーリーなのだろう。

それを本人も認識していて、父親の血を受け継いだおかげで殺し屋ができているという皮肉まで言っている。

恐怖の対象である父親の存在と親殺しの事実、さらにその血を受け継いでしまった自らの存在にチャーリーは苦しめられ、精神的に成長が止まり、人間的な感情が欠落している。

 

そして兄イーライは弟の父親殺しに後ろめたさを感じている。

本来は長兄である自分がしなくてはいけない損な役割を弟にさせてしまった。

本来優しい性格であるイーライは本当は殺しなんかしたくない、穏やかな幸せを願っている人間だ。

だけど父親殺しをしたことで人間としての心が崩壊しつつある弟の暴走をすぐ近くで止めることが自分の役割だと、弟を守れるのは自分だけだと思っている。

 

兄弟は生きるために、この世のすべてを仕切っているんじゃないかとすら思えてくる提督に仕え、殺しを生業とする。

「生きるために殺す。」

これってすごく矛盾した行為なんだけど、これは「相手の生命を奪うという殺し」ってだけでなく「自分たちの人間性を奪う殺し」って要素もあると思う。

兄弟は眉一つ動かさず相手の生命を奪うけど、それと引き換えに自分の人間性も失っていってるのだ。

兄イーライは生来の優しさから弟や馬への愛情を持ち合わせているけど、弟チャーリーは父親殺しから時が止まっている。

悪夢にうなされる冗談で兄をからかったりしていたけど、イーライの反応を見る限り日常的には本当にうなされているんだろう。

 

そんな2人はウォームを追跡する過程で、それまで口にしていなかったこの先進むべきだと思っている道が異なっていることを知る。

おそらく薄々は気づいていたとは思う。

兄は自分はもちろん弟にも殺しを引退させて静かに人間らしく暮らしたい。

対して弟は自分にはもう殺ししか生きる術はないし、それで金を稼ぎ成り上がるしかこの悪夢から抜け出る術はないと思っている。

そんな違いが表面化した時、兄弟は映画のハイライトである運命の川にたどり着き人生が激変するわけだけど、ここからがもう素晴らしかった。

敵同士が手を組み障害を乗り越えるカタルシスから、それを通して4人が徐々に心を通わせていき、そしてようやく全てが上手く回りん出すんではないかと思った矢先、最大の挫折を迎えるという、アメリカン・ニューシネマから邦画の青臭い高校生映画にも通じるような正に青春というべき運命を辿る。

この川での4人の遭遇からは本当に面白かった。

川までのちょっと停滞していた展開も全てこのための伏線だったのかと思わせる力があった。

銃撃戦でのチャーリーの恐ろしいほどの戦闘力と頼もしさ、イーライをすぐに取り込んでしまうウォームの柔らかい人間的魅力、まるで修学旅行の夜のように焚き火を囲んで話す3人とそれに戸惑うチャーリー、モリスとチャーリーの川で水浴びをしながらの会話など、どれもが心を動かされるいいシーンだった。

特に映画序盤から出てくるチャーリーの熊のようなぎこちない歯磨きとモリスの洗練された歯磨きの対比と、それを通して言葉を交わすことなく心が通い始めているのが分かる描写は場内で笑いも起きていたし秀逸だと思った。

 

そして殺し以外の共同作業、生活を通して短い期間ながらも、チャーリーは確実に変化していて自分の呪われた運命に立ち向かう決意も固め始めていた。

あと僕は多分チャーリーは楽しかったんだとも思うのだ。

金を手に入れて未来を変えるという欲望だけじゃなく、何かを他人と共有するのが新鮮だったんだと。

だからこそチャーリーは実際の金採掘作業中、輝く金を見て調子に乗ってしまった。

金に目がくらんだだけでなく、純粋に頑張りすぎてしまった、この作業の役に立ちたくて。

その結果が何とも残酷なことになってしまった。

そんな感じだと思うのだ。

そう僕は捉えていたから、全部が切なくて切なくて。

まず序盤から映画の良心であったモリスとウォームの夢の第一歩を踏み出した時点で散っていくその姿が痛々しすぎて、ほんと辛くなった。

ほんの数分前まで元気だった人間がもだえ苦しみ死を迎える様は、実際の人間を前にした時くらい生生しく感じてしまって、こんなに自分が感情移入していたことに少し驚いた。

そして私利私欲のためだけに金を得ようとしているわけではないウォームとモリスが死に、ヘマをした自分が生き残ってしまった事実に苦しむチャーリーの挫折感がまたグッとくる。

せっかく目標を見つけ自分の人生を生き始めようとした途端の挫折。

すごく無慈悲だけど、僕には現実世界の全てを象徴しているような出来事に感じられて、面白いとはちょっと違うけど「ああ、いいなあ」と思った。

 

結局自身も右腕を失い、情けなさから泣き崩れるチャーリーの姿は皮肉にもなんとも人間らしくて、ここで「ああ、この映画はシスターズ兄弟が人間性を取り戻す青春の旅なんだな」とはっきり感じた。

全然結末は見えてなかったけど、これは傑作だなと確信した瞬間だった。

 



映画『ゴールデン・リバー』ラストの意外さ

当初のイメージからいい意味で逸脱しまくる『ゴールデン・リバー』だっだけど、ラストが最も意外だった。

 

シスターズ兄弟は提督を裏切り、モリスとウォームの側に付いたので当然提督から追手がやってくる。

まあ裏切ったときから底なしの提督地獄にケリをつけるつもりだった2人は提督を殺しに向かう。

普通このあたりで最後の大一番、多勢に無勢の銃弾の嵐ファイトだったり、静かな超渋い1対1だったり、何かしらクライマックスのガンバトルがあるのを期待するところだ。

 

だが、なぜか途中から追手の雑魚すら来なくなって、兄弟は一発も撃つことなくあっさりボスである提督の元に辿り着いてしまう。

なぜなら提督は死んでしまっていて葬式してるからという、予想の斜め上を行くびっくり展開。

それも多分寿命が尽きての死という。

アクション映画期待していた人はもう我慢ならないほどの肩透かし展開だろうけど、兄弟にとって世界を支配しているくらいの存在であった最大の壁ともいえる提督が既に棺に入っている画はなんともシュールだったし、いざ意を決して挑もうとした障壁に挑ませてすらもらえない世界の不条理を感じた。

イーライなんて死体でしか提督に触れることができなかったわけだから。

提督は死してなお世界を掌握してるようで不気味だった。

それにしても演じたルドガー・バウアーがこの映画の撮影から数年で先日ほんとに永眠してしまったのは、あの展開がそれを予言していたかのようでちょっと嫌だったなあ。

 

そして目的を失った兄弟が最後に辿り着いた地は、愛する母親の元だった。

出演者と映画のもつ雰囲気から最後はポール・トーマス・アンダーソンの『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』みたいな血と不条理と静けさが同居したような暗いエンディングを想像していたけど、その真逆を行くような何とも温かいハッピーエンド?が待っている。

唐突ともいえる、まるで最後だけ違う映画のような温かみを持った幸福なラストだったけど、すっかり兄弟のことを好きになってしまっていたので本当に良かったなって思えた。

 

お伽噺のようなそれまでとは趣が全く異なるこのラストシーンを堂々と当たり前のように差し出してきたのはすごいと思う。

当たり前のように兄弟に降り注いだ安心、幸せ。

映画だからこそ成立する力技だと思う。

ようやく人間らしく風呂に浸ることができたチャーリーとそれを見て安心するイーライの表情を観ていると自然にニヤけてしまった。

映画『ゴールデン・リバー』俳優たちの存在感

メインキャスト4人全員がいい雰囲気を醸し出していてハマっていた。

全員良いっていうのなかなかないと思う。

 

まずホアキン・フェニックスだけど、歳を重ねてどんどんかっこよくなっている。

何を考えているか分からない綺麗な瞳に野生動物のような危険な雰囲気、そしてその裏に見え隠れする繊細で神経質な雰囲気が、チャーリーに血を通わせていた。

髭面で少し腹も出ているし、かなりなで肩の決して綺麗な体型ではないのに、その映画内での佇まいは美しさすら感じる。

時折遠くを見つめるその瞳、表情の憂いを観るとすごく切なくなる。

また映画内での変化の様子も見事で、右腕を失くす以外に特に見た目に変化があるわけじゃあないのに、川での出来事以前後では明らかに変化が感じられる。

これは兄イーライを演じたジョン・C・ライリーと対になっている点だけど、川での挫折以来明らかに兄弟の立場が元に戻っているのだ。

兄がその尊厳を取り戻したのが2人の演技から伝わってくる。

ジョン・C・ライリーはキャリア1のはまり役だったんじゃないだろうか。

まあそんなに出演作見ているわけじゃないし、かなり適当発言だけど、モンスターのような汚らしくて恐ろしい見た目に反して、穏やかでかわいらしいイーライを魅力的に演じていたと。

この映画はジョン・C・ライリーの魅力が大きいと思う。

過去に兄としての役目を果たせず普段は弟の一歩後ろにいて、時にそのことに嫉妬したりもするけど、いざとなると弟を全力で守り誰よりも強くなるイーライがかっこいいのだ。

特にチャーリーの腕を切断した後に襲われた時なんて、絶対無事では済まないという状況なのに、表から降伏を装い出ていって追手を返り討ちにしてしまう。

不死身なのだ、多分、見た目通り。

普段は穏やかで、愛馬の死に落ち込みまくったり、必死に使い慣れない歯磨きをしてみたりとすごく愛らしくて、そういうところとのギャップが最大の魅力だった。

 

またジョン・モリスを演じたジェイク・ギレンホールも、僕の中ではいつもはもっと気持ち悪い感じなんだけど、今作ではすごく知的で聡明な雰囲気が充満していた。

その相棒ウォームを演じたリズ・アーメッドも助けたくなるような人懐っこい空気を出していて、皆が手伝ってしまうのも頷けた。

この2人がいわゆる善である、一般的な物語の主人公のような感情移入したくなるキャラクターになったことで、この映画はより一層悲劇的になり、だからこそシスターズ兄弟の人生再生の様に心打たれるんだと思った。

 

おわりに

観る前から面白そうだとは思っていたものの、想定とは違う面白さにかなり感動してしまった。

変化球の青春もの西部劇という点では『明日に向かって撃て』のようでもあった。

途中でそんなこと思ったから、シスターズ兄弟も死ぬんだと勝手に思っていたのに、その予想のちょうど180°反転したような全く想定外の展開に唖然とすると共に、こういうハッピーエンドもいいものだと思わされた。

けっこうその初見の意外さを評価したような文章になっちゃったけど、映画全体を通しての雰囲気や登場人物たちを好きになるので繰り返し楽しめる傑作だと思う。

おわり