2019年のカンヌ国際映画祭、最高賞であるパルム・ドールを受賞したのは韓国映画史上初となる『パラサイト 半地下の家族』だった。
そんな韓国映画界の悲願(たぶん)を達成した男こそ、映画監督ポン・ジュノだ!
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パルム・ドール受賞作『パラサイト 半地下の家族』の記事はこちら
超学歴社会の韓国でもエリートであった彼が、最初に監督したのがペ・ドゥナ主演『ほえる犬は噛まない』。
ペ・ドゥナ主演だし、面白くないわけではないが、ちょっと変わった作品に仕上げすぎたため思うように当たらず、評価もイマイチだった。
そんな失意のポン・ジュノだが、決死の思いで送り出した第2作目『殺人の追憶』は韓国国内で記録的な大ヒットをとばすと共に、作品の評価も高く、今も彼の代表作となっている。
これは素晴らしい!
その当時は『シュリ』なんかの影響でかなり韓国映画が注目されていたけど僕はフンて感じだった。
でも『殺人の追憶』を観て、「韓国映画バンザーイ』とコロッと態度を変えた傑作だ。
続く第3作目の『グエムル−漢江の怪物−』は当時の韓国興行記録を塗り替える、『殺人の追憶』以上の成功をおさめる。
そして第4作目『母なる証明』は僕のポン・ジュノ映画ベスト1だ。
その後は『スノーピアサー』、Netflix映画『オクジャ/okja』でハリウッド作品(ハリウッド俳優、アメリカ資本の投入という点で)を監督し、世界のポン・ジュノとなる。
そして『パラサイト 半地下の家族』の成功へと繋がるのである。
そんな大ヒットはするし、海外映画祭でも評価されるという無双状態のポン・ジュノが選ぶオールタイム・ベスト10作品をご紹介する。
これは2012年にイギリスの映画雑誌sight&soundが実施したアンケート結果だ。
sight&sound誌は英国映画協会発行(BFI)の映画雑誌でかなり硬派な内容らしい。
そんなsight&sound誌が10年おきに開催している映画監督が選ぶオールタイムベスト10の投票結果を元にご紹介していく。
ポン・ジュノが選ぶオールタイム・ベスト10(sight&sound 2012)
『悲情城市』(1989) ホウ・シャオシェン
『悲情城市』
1989年製作/159分/台湾
原題:悲情城市 A City of Sadness
受賞 : 第46回ヴェネツィア国際映画祭 金獅子賞
監督 : ホウ・シャオシェン
出演 : ウー・イーファン チャン・ホンジー トニー・レオン 他
台湾現代史において、最も激動的な1945年の日本敗戦から1949年の国民党政府の樹立までの4年間を、林家の長老・阿祿とその息子たちの姿を通して描いた一大叙事詩。台湾ニューウェーブの雄、ホウ・シャオシエン監督は本作でベネチア映画祭金獅子賞を受賞、その評価を決定づけた傑作。主演は香港のトップスター、トニー・レオン。彼は台湾語を話せないために聾唖という設定になったという逸話もある。 -映画.com
台湾映画といえばこの人、ホウ・シャオシェン。
1980年代の映画ブーム、台湾ニューシネマをエドワード・ヤン(『クーリンチェ少年殺人事件』)などと共に担った大監督!
『悲情城市』はホウ・シャオシェンの代表作の1つで最も評価が高い作品の1つ。(僕は個人的に『恋恋風塵』の方が好き。是枝裕和のフェイバリットでもある)
1945年日本統治が終焉した台湾には、中国本土から蒋介石率いる中国国民党が進駐してきたことにより、激動の時代をむかえることになる。
そんな4年間をカタギではない阿祿を当主とする林家を通して描く大河ドラマだ。
林家の4兄弟を中心としたドラマではあるが、それに関わる多くの人間が登場するので、同じアジア人の僕でも誰が誰だか分からなくなったりする。
またこの作品は台湾の歴史を知るのに役立つが、逆に事前にその時代の台湾のことをザッとでも知っておかないと、160分ぽかーんと取り残されるかもしれない。
というか寝る!たぶん。
台湾は元々その土地にいた本省人と、日本敗戦後、中国本土からやってきた外省人という人種に近いくらいの区分けがあり、差別なんかに繋がっている。
そういう本省人と外省人の大きな対立事件が、映画で描かれている二・二八事件だ。
この辺のことを少し知っておくだけでも、少し『悲情城市』を楽しむのに役立つはず!
これはエドワード・ヤンの大傑作『クーリンチェ少年殺人事件』にも通じる話だ。
こういった歴史的な側面を市井の人々の暮らしから語る作品だが、その他のホウ・シャオシェン映画からもれず引きの固定ショットで語られるのが特徴。(もちろんバストショットくらいはあるが)
事件はめちゃくちゃ起きるが、そんな調子だから変に盛り上げたり、ドラマティックに語ったりはしない。
しかしその固定の引きが冷静に台湾を見つめる神の視点へと昇華されていく。
誰か特定の個人に感情移入する映画ではないのだ。
激動の時代を生きる台湾の人々の生活を静かに見つめ、"人間の生と死"に思いをはせる、そんな映画だ。
とここまで書いたが、『悲情城市』の最大の魅力は画の美しさだ!
なんでこの時代の、というかホウ・シャオシェン、エドワード・ヤンの映画はこんなに画が美しいのか謎ですらある。
映っているのは同じアジア人なのに、なぜこうも邦画と違うのか…
昼ですら雰囲気はなんか暗いのに、光がなんとも美しい。
あと若きトニー・レオンがかっこいい、というか美しいので注目。
『CURE』(1997) 黒沢清
『CURE』
1997年製作/111分/日本
監督 : 黒沢清
脚本 : 黒沢清
出演 : 役所広司 萩原聖人 他
猟奇的殺人事件の犯人を追う刑事の姿を描いたサイコ・サスペンス。監督・脚本は「復讐 消えない傷痕」の黒沢清。撮影を「マネージャーの掟」の喜久村徳章が担当している。主演は「バウンス ko GALS」の役所広司で、本作で第10回東京国際映画祭の主演男優賞を受賞した。共演に「ドリーム・スタジアム」の萩原聖人。-映画.com
あらすじ -wikipedia
娼婦が惨殺される事件が発生。被害者は鈍器で殴打後、首から胸にかけてX字型に切り裂かれていた。犯人は現場で逮捕されたが、動機を覚えておらず、その手口さえ認識していない。刑事の高部は、同様の事件が相次いでいることを訝しがり、友人の心理学者・佐久間に精神分析を依頼する。しかし何故、無関係なはずの犯人たちが同じ手口で犯行を行うのか、そしてそれを認識していないのか、その手がかりは掴めない。 渦中の高部は、精神を病んでいる妻との生活と、進展しない捜査に翻弄されて疲弊してゆく。やがて、加害者たちが犯行直前に出会ったとされる男の存在が判明する。男の名は間宮邦彦。記憶障害を患っており、人に問いかけ続けるその言動は謎めいていた。そんな間宮の態度が高部をさらに追いつめていく。 しかし、間宮と関わっていく中で高部の心は密かに癒されていく。
次は日本映画といえばこの人、黒沢清だ!
伝説の映画監督長谷川和彦の『太陽を盗んだ男』(1976)から劇映画に携わっているので、長年映画を撮っているのだが、メジャーな存在になってきたのはここ10年くらいか。
『岸辺の旅』(2015)で第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門監督賞、『スパイの妻』(2020)で第77回ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞した。
そんな黒沢監督の代表作が『CURE』だ。
僕もこれが一番好きだ。
近年の原作モノであっても、全部黒沢カラーに染めあげてしまう黒沢監督。
それがいいのか悪いのかは置いとくとして、黒沢作品は一般的な邦画とは一線を画す硬派な映画演出が魅力的だが、テレビドラマを見慣れた人にはちょっととっつきにくところがある。
てか多分怒り出すやつがいると思う。
そんな人にも『CURE』は比較的入りやすくオススメだ。
ちょっと変わってはいるが、話としては”連続猟奇殺人事件を追う役所広司演じる刑事と、萩原聖人演じる謎の男の対決”だ。
恐ろしい雰囲気と既視感のない違和感の連続。
最初以外、特にグロい直接的な死体など出てこないのに恐ろしいのだ。
黒沢監督は空間から滲み出る雰囲気で恐怖を演出する達人だ。
是非この『CURE』を入り口に黒沢清ワールドを体験していただきたい!
その代わり鑑賞後、自分自身のことが怖くなります…
ポン・ジュノも日本の監督では黒沢監督が大好きみたいだ。
『パラサイト 半地下の家族』のあの禍々しい地下室は間違いなく黒沢清のパクリだ!
『ファーゴ』(1996) コーエン兄弟
『ファーゴ』
1996年製作/98分/アメリカ
受賞 : 第69回アカデミー賞脚本賞 第49回カンヌ国際映画祭監督賞 他
監督 : ジョエル・コーエン
脚本 : ジョエル・コーエン イーサン・コーエン
出演 : フランシス・マクドーマンド ウィリアム・H・メイシー スティーブ・ブシェミ 他
コーエン兄弟によるブラックユーモアをちりばめた異色のクライムサスペンス。厚い雪に覆われるミネソタ州ファーゴ。多額の借金を抱える自動車ディーラーのジェリーは、妻ジーンを偽装誘拐して彼女の裕福な父親から身代金をだまし取ろうと企てる。ところが誘拐を請け負った2人の男が警官と目撃者を射殺してしまい、事件は思わぬ方向へ発展していく。アカデミー脚本賞、主演女優賞をはじめ、多数の映画賞を獲得した。 -映画.com
大好きな監督が続きますが、お次はアメリカからコーエン兄弟の代表作『ファーゴ』。
数年前にはドラマ化もされ、コーエン兄弟はクリエイティブな作業には参加していないようだが、こちらも面白い。(シーズン1しか観てないが)
コーエン兄弟が今回の10本の中で一番ポン・ジュノと作風が近い気がする。
”インテリが撮るちょっと鼻につくブラックコメディスリラー”というかんじ。
一応すごい褒めてるぞ!
『ファーゴ』はコーエン兄弟得意の誘拐クライム・サスペンスだが、どことなく間が抜けたとぼけた空気も流れており、普通のハラハラドキドキサスペンスを期待すると肩透かしを食うかも。
というか間違いなくポカーンとする。
だがこの作品の魅力は、ジャンルを裏切るところにある。
これはポン・ジュノにも共通した魅力だ。
何をやっても上手くいかず、どんどん悪い方に物事が進むカーディーラー、無表情と馬鹿面の殺し屋コンビも魅力的だが、やはりフランシス・マクドーマンド演じる妊婦の警察署長がキャラクターとして秀逸。
物悲しいアメリカの片田舎で繰り広げられる凄惨で間抜けな事件に一筋の光を与えてくれる。
『ファーゴ』はクライム・サスペンスでありながら、人間讃歌でもあるのだ!
ちなみにフランシス・マクドーマンドは兄ジョエル・コーエンの妻でもある。
実は記録的に雪が降らない年に撮影したらしいが、冬になると無性に観たくなる美しい雪景色にも注目。
同じコーエン兄弟の『ノーカントリー』(2007)が好きな人には間違いなくオススメだ!
『下女』(1960) キム・ギヨン
『下女』
1960年製作/108分/韓国
原題: The Housemaid
監督 : キム・ギヨン
出演 : キム・ジンギュ チュ・ジュンニョ イ・ウンシム 他
妻が病に倒れ、家政婦として若い女を雇ったピアノ教師の男。
男の強い性的欲動と娘の魔性的な魅力によって、やがて二人は関係を持つ…。
ブルジョア家庭に渦巻く、欲望、憎悪、狂気…。
世界的評価のきっかけとなったキム・ギヨンの最高傑作。-amazon.co.jp
『パラサイト 半地下の家族』を作る上でポン・ジュノが最も影響を受けたのが、このキム・ギヨン『下女』だ。
というかもう元ネタといってもいいと思う。
裕福なピアノ一家にメイド(下女)としてやってきた魔性の女が、主人を誘惑し、やがて一家での立場を強めていくサイコ・スリラーだ。
まさにパラサイト女。
キム・ギヨンは"韓国映画界の怪物"と呼ばれているとか、いないとか。
とりあえずこの『下女』を観てもらえれば、その意味は理解できる。
正直『パラサイト 半地下の家族』よりはるかに強烈だ。
とにかくこの下女が美しくも、ほんと怖い。
あんなのに足にしがみつかれた日には、窓から飛び降りて逃げたくなる。
そんな閉所に閉じ込められるような気分を味わえる。(そんなの味わいたくないが)
そしてこの映画の主役と言っても過言ではないのが"階段”だ。
『パラサイト 半地下の家族』でも強烈な印象を残す階段だが、『下女』はそんな比ではない。
とくにラストの階段、主人、下女のシーンはトラウマ級の面白さ。
必見だ!
『サイコ』(1960) アルフレッド・ヒッチコック
『サイコ』
1960年製作/109分/アメリカ
監督 : アルフレッド・ヒッチコック
脚本 : ジョセフ・ステファノ
出演 : アンソニー・パーキンス ジャネット・リー 他
アルフレッド・ヒッチコック監督によるサイコサスペンスの古典的名作。不動産会社に勤める女性マリオンは恋人サムとの結婚を望んでいたが、サムは元妻への慰謝料の支払いに追われ再婚を渋っていた。そんな中、会社の金4万ドルを銀行へ運ぶことになった彼女は、出来心からその金を持ち逃げしてしまう。サムの元を目指して車を走らせるマリオンだったが、大雨で視界が悪くなり、偶然見つけた寂れた宿「ベイツ・モーテル」でひと晩を過ごすことに。そこで彼女は、宿を1人で切り盛りする青年ノーマンと出会うが……。アンソニー・パーキンスがノーマン役を怪演。 -映画.com
サイコ・スリラーの元祖とも言うべき名作がアルフレッド・ヒッチコックの『サイコ』。
シャワーの包丁ザクザク殺害シーンから目のアップ、排水溝の流れは世界に衝撃を与えた。
もう古典ともいうべき説明不要の名作だが、今見ても新たな発見が多い。
映画監督、塩田明彦の『映画術』を読んでから観ると更に面白いので是非!
ヒッチコック自身にも『映画術』という世界の映画監督も絶賛する名著がある。
これはアルフレッド・ヒッチコックを尊敬するフランスの映画監督フランソワ・トリュフォーがヒッチコックにものすごい長時間に渡ってインタビューをしたものだ。
一作ごとにヒッチコックの映画製作の裏話や演出の意図なんかが聞けてかなり為になるし、面白い。
とにかく重くて分厚いのが残念なところ…
ポン・ジュノもこれを読んで勉強したのだろうか…
『レイジング・ブル』(1980) マーティン・スコセッシ
『レイジング・ブル』
1980年製作/129分/アメリカ
受賞 : 第53回アカデミー賞主演男優賞 他
監督 : マーティン・スコセッシ
脚本 : ポール・シュレイダー ジョセフ・カーター
出演 : ロバート・デ・ニーロ ジョー・ペシ キャシー・モリアーティ 他
1940~50年代に活躍しミドル級チャンピオンにも輝いた実在のボクサー、ジェイク・ラモッタの半生を、「タクシードライバー」のマーティン・スコセッシ監督&ロバート・デ・ニーロ主演コンビが映画化。後に「ブロンクスの猛牛」とも呼ばれるようになるジェイクが、八百長試合を強いてくる組織との関係などに悩まされながらも栄光をつかみとる。しかし、妻のビッキーやセコンドを務める弟ジョーイに対し猜疑心や嫉妬心を募らせていき、信頼できる人間が離れていくことで凋落していく。主演のデ・ニーロは引退後のラモッタの姿を再現するため27キロも増量して挑み、アカデミー主演男優賞を受賞。体型をも変化させる徹底した役作りを意味する「デ・ニーロ・アプローチ」という言葉を生むきっかけとなる。 -映画.com
ポン・ジュノがアカデミー賞授賞式の壇上で名前を口にするくらい尊敬してやまない監督が巨匠マーティン・スコセッシだ。
マフィアの支配するイタリア系移民社会で育ったため、作品もマフィアに関するものが非常に多い。
結構僕としてはポン・ジュノがスコセッシ好きなのが意外というか、あまり作風に影響があるように思えないが、何度もスコセッシ映画を観て勉強したらしい。
そんなマーティン・スコセッシの代表作の1つが『レイジング・ブル』だ。
僕は『タクシードライバー』(1976)のような静かに破滅に向かうような作品は好きなのだが、この『レイジング・ブル』はどうも好きになれない。
まず登場人物がうるさい。
まあこれはおしゃべり好きなスコセッシマフィア映画では特に顕著な傾向だ。
それより大きな理由がこの映画がボクサーの映画だからだ。
ボクシングを素人が演じるのは本当に難しいことだと思う。
そのためこの『レイジング・ブル』のボクシングシーンはとろとろしてて全然のれない。
この映画はアクションシーンが見どころではないから、そこだけスルーできればきっと面白いのだろうが、僕はちょっとのれずに終わってしまった。
しかしこれは僕個人の意見。
このsight&soundのように、どこかの雑誌がオールタイム投票を行うと中にはトップ10に入ることもある人気の作品だ。
どこがそんなにいいのか、そろそろ僕ももう一回観て確認したい。
時間が経てば驚くほど映画の感想は変わったりするものだから。
『黒い罠』(1958) オーソン・ウェルズ
『黒い罠』
1958年製作/96分(劇場公開版)/アメリカ
原題:Touch of Evil
監督 : オーソン・ウェルズ
脚色 : オーソン・ウェルズ
出演 : チャールトン・ヘストン ジャネット・リー オーソン・ウェルズ 他
「マクベス(1948)」以来のオーソン・ウェルズ監督作品の登場である。探偵作家ホイット・マスターソンの「悪の記章」を原作とする、メリカ=メキシコ国境の町に起こった爆殺事件にからまる、両国の捜査刑事の対立と不気味な警察内部の腐敗が、国境町の風土感を生かして描かれる。撮影監督は「千の顔を持つ男」のラッセル・メティ。音楽は「世界を駈ける恋」のジョセフ・ガーシェンソン。主演は「悪魔に支払え!」に次ぐウェルズ自身に「十戒(1957)」のチャールトン・へストンと「ジェット・パイロット」のジャネット・リー。その他「追想」のエイキム・タミロフやジョセフ・カレイアなどの性格演技者が選ばれている。特別主演として「情婦」のマレーネ・ディートリッヒ、「赤い風車」のザザ・ガボールが登場。製作は「翼に賭ける命」のアルバート・ザグスミス。-映画.com
史上最高の映画を選出する時、必ずベスト1に挙がる作品が『市民ケーン』だ。
映画の映像表現を変えたとも言われる『市民ケーン』を若干21歳で完成させたの天才がオーソン・ウェルズだ。
しかも主演、共同脚本まで務めちゃっている。
そんなオーソン・ウェルズが監督・出演した『黒い罠』はカルト的人気をほこり、特にオープニングの3分ちょっとの長回しにより伝説となった作品だ。
長回しの例として必ずといってもいいほど挙げられる映画で、僕もこれが観たくて鑑賞した。
男によって車に爆弾が仕掛けられ、その車を延々とカメラが追う。
その過程で主人公も並走するように歩いて登場し、キスをするまでを1ショットで撮っている。
これを今なら技術の発達で楽楽できるのだろうが、当時のことを思うと本当にすごいし、撮影している時のことを思うと楽しそうでワクワクする。
正直話としては正義の刑事と悪徳刑事の対立という単純なものだし、前半はちょっとだるいのだが、その撮影のうまさもあって後半俄然面白くなる。
特に悪徳警官に扮したオーソン・ウェルズが素晴らしく、ホテルでの殺しのシーンからクライマックスまでがすごい!
モノクロに映える光と闇、そしてチャレンジングな撮影は一見の価値あり。
『復讐するは我にあり』(1979) 今村昌平
『復讐するは我にあり』
1979年製作/140分/日本
監督 : 今村昌平
脚色 : 馬場当
出演 : 緒形拳 三國連太郎 ミヤコ蝶々 他
九州、浜松、東京で五人を殺し、詐欺と女性関係を繰り返した主人公の生いたちから死刑執行までを辿る。昭和五十年下期の直木賞を受賞した佐木隆三の同名の原作の映画化で、脚本は「ギャンブル一家 チト度が過ぎる」の馬場当、監督は「にっぽん戦後史 マダムおんぼろの生活」の今村昌平、撮影は「野性の証明」の姫田真佐久がそれぞれ担当。-映画.com
再び日本から、今村昌平の『復讐するは我にあり』。
日本の撮影システム崩壊後の監督で、世界的な監督といえばこの人か、この人しかいないのか…
『楢山節考』(1983)、『うなぎ』(1997)の2回カンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞する快挙を達成している。
今村昌平といえば、日本的な映画にこだわり、土着性が非常に強いイメージだ。
厳しい現実に直面しながらも、力強く生きる人間をとらえた重喜劇と呼ばれる作風が特徴。
とてもねちっこくて、生々しい性的な要素も多く、正直僕はちょっと苦手だ!
今村昌平の師匠である川島雄三(代表作『幕末太陽傳』)は大好きなのだが…
だがこの『復讐するは我にあり』は例外でかなりオススメだ!
この映画は実際の連続殺人事件、西口彰事件を犯人の側から描いている。
実際の連続殺人事件を調べるのが好きな僕にはうってつけの映画だった。
西口をモデルとした主人公、榎津巌を演じた緒形拳の血走る眼が凄まじく、観ているだけでヒヤヒヤさせられる。
自分の欲望のままに刹那的に犯行に走る榎津の行動は全く理解は出来ない。
だがその姿は同時に物悲しくもあり、複雑な気持ちになる。
実録殺人事件モノなので、ポン・ジュノも『殺人の追憶』なんかの参考にしたのだろうか。
だが『殺人の追憶』と違って、『復讐するは我にあり』にユーモアはない。
あるのは笑うしかない人間の愚かな姿だ。
『恐怖の報酬』(1952) アンリ=ジョルジュ・クルーゾー
『恐怖の報酬』
1952年製作/131分(劇場公開版)/フランス
原題:The Wages of Fear Le Salaire de la Peur
受賞 : 第6回カンヌ国際映画祭グランプリ 第3回ベルリン画国際映画祭金熊賞 他
監督 : アンリ=ジョルジュ・クルーゾー
脚色 : アンリ=ジョルジュ・クルーゾー
出演 : イヴ・モンタン シャルル・ヴァネル フォルコ・ルリ 他
「二百万人還る」のアンリ・ジョルジュ・クルーゾーが一九五一年から五二年にかけて監督した作品で、中米を舞台に四人の食いつめ者がニトログリセリンを運搬するスリルを描いたもの。ジョルジュ・アルノーの小説をクルーゾー自身が脚色し、台詞をかいた。撮影は「夜ごとの美女」のアルマン・ティラール、音楽は「アンリエットの巴里祭」のジョルジュ・オーリックである。出演者はシャンソン歌手として日本にもよく知られるイヴ・モンタン(「失われた想い出」)、「独流」のシャルル・ヴァネル、クルウゾオ夫人のヴェラ・クルウゾオ(映画初出演)、「オリーヴの下に平和はない」のフォルコ・ルリ、「外人部隊(1953)」のペーター・ファン・アイク、「ヨーロッパ一九五一年」のウィリアム・タッブスなどである。なおこの作品は一九五三年カンヌ映画祭でグラン・プリを受賞、シャルル・ヴァネルが男優演技賞を得た。-映画.com
カンヌ、ベネチア、ベルリンという世界3大映画祭、全てで最高賞を受賞した世界初の監督がフランス人、アンリ=ジョルジュ・クルーゾーだ。
そんなアンリ=ジョルジュ・クルーゾー、…名前がなげえ。
そんな彼の代表作が『恐怖の報酬』だ。
カンヌもベルリンと2冠の本作、そう聞くとなんか難しそうだが、そんなことは全く無く、今回の10本の中で一番ハラハラドキドキする娯楽作といっても過言ではない。(と思う)
ストーリーは簡単で、山上の油田の火事を爆風で消すために、大量のニトログリセリンを安全装置などないトラックで運ぶというもの。
主人公マリオとジョー、ルイージとビンバの2組がいつ爆発するか分からないトラックを運転して上を目指すが、道中様々なトラブルが巻き起こる。
幸せを夢見て、大金と引き換えに命をかける男たちのサスペンスドラマであり、生と死を見つめた人間ドラマでもある。
手に汗握る途切れない緊張感も素晴らしいのだが、最後までどうなるか本当に分からない、人生のような展開にも注目だ!
『ゾディアック』(2007) デヴィッド・フィンチャー
『ゾディアック』
2007年製作/157分/アメリカ
原題:Zodiac
監督 : デヴィッド・フィンチャー
脚色 : ジェームズ・バンダービルト
出演 : ジェイク・ギレンホール マーク・ラファロ ロバート・ダウニー・Jr 他
「セブン」「ファイトクラブ」のデビッド・フィンチャー監督が、実際に起こった未解決事件を題材に放つサスペンス・ドラマ。周到に用意した手掛かりで人々を翻弄する連続殺人犯“ゾディアック”に挑み、人生を狂わされた4人の男たちの姿を描き出す。出演はジェイク・ギレンホール、ロバート・ダウニー・Jr.、マーク・ラファロほか。-映画.com
色彩が抑えられたダークサスペンスといえばこの人デヴィッド・フィンチャーだ。
彼の代表作といえば『セブン』や『ファイトクラブ』となるのだろうが、僕もこの『ゾディアック』の方が好きだ。
アメリカで最も有名な未解決殺人事件、ゾディアック事件を扱った映画で、とにかく事実に忠実に描かれる。
未解決殺人事件を描くということがポン・ジュノの『殺人の追憶』(2002)と共通する。
だが『殺人の追憶』の方が先に制作ということで良かったかもしれない。
ポン・ジュノがデヴィッド・フィンチャーファンだったら影響されてしまっていたかもしれないから。
未解決殺人事件を描くということは、最後まで犯人が逮捕されず観客はその点においてスッキリしないということ。
しかし『殺人の追憶』と同様、そんな心配はいらない。
『ゾディアック』は殺人の様がスリラーとして描かれてもいるが、それが主ではなくメインとなっているのは、ゾディアック事件探求にのめり込み、振り回される人間たちの生き様だ。
1つのことにのめり込み、生活にまで支障をきたしていく人間を観るのは、殺人事件自体より時にハラハラさせられるの。
157分とかなりの長尺だが、あっという間なので是非ご覧いただきたい!