映画『寝ても覚めても』ネタバレ感想&解説 恋という名の死に取り憑かれた女の話
(C)2018「寝ても覚めても」製作委員会/COMME DES CINEMAS
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昨年のカンヌ国際映画祭において驚くべきことが起こっていました。

是枝さんがパルム・ドールを受賞したのもある意味驚いたんですけど、そうではなく日本人の作品が同時に2作品パルム・ドール対象であるコンペティション部門に選出されたからです。

是枝さんとそのもう1人の監督の名は濱口竜介

国立大唯一の映画学科がある東京藝術大学大学院で黒沢清の元で学び、素人の4人の女性を主演にワークショップしながら撮影したという『ハッピー・アワー』(2015)で話題になったというくらいは知っていたのですが、『ハッピー・アワー』は驚異の5時間超えということで永遠に観ることはないかもなと思っていた監督でした。

師匠である黒沢さんでさえ、毎回是枝さんがいるとカンヌでは「ある視点」部門にばかり選出されるので、日本はコンペディション部門に1作品しか選出されないのかなと思っていたので本当に驚きましたよ。

そのコンペティション部門に選出された濱口竜介監督商業デビュー作が『寝ても覚めても』です。

真っ先に気になったのは上映時間ですが、119分

セーフ!

そして主演はなんと唐田えりか

ソニー損保のCMの果てしないスロー感と素人感が僕を含め世間を心配させた彼女ですが、たまたま観たback numberの「ハッピーエンド」のMVに出演している彼女に僕は魅せられてしまったんですねえ。
すごくそのいい意味での素人感というか飾らない存在感みたいなものを感じたんですよ。

そんな注目していた唐田えりかですが、MVと違って声を出しての演技は厳しいんではないかと思っていたんです。
それをあっさり飛び越えて主演に抜擢し、カンヌまで行ってしまった濱口竜介はなんてすごいんだと思わずにはいられません。
しかもW主演の相方はデビュー作『桐島、部活やめるってよ』(2012)こそ無口な役でそれなりに存在感を示していましたが、しゃべると棒読み感が半端ない東出昌大

色んな意味で楽しみにしていたのに、劇場での鑑賞を逃してしまった本作をようやく家で観ましたよ。

映画『寝ても覚めても』とは???

(C)2018「寝ても覚めても」製作委員会/COMME DES CINEMAS

作品データ
製作年 2018年
製作国 日本・フランス合作
配給 ビターズ・エンド、エレファントハウス
上映時間 119分
映倫区分 G

スタッフ
監督
濱口竜介
原作
柴崎友香
脚本
田中幸子
濱口竜介
エグゼクティブプロデューサー
福嶋更一郎
プロデューサー
定井勇二
山本晃久
服部保彦
撮影
佐々木靖之
録音
島津未来介
美術
布部雅人
スタイリスト
宮本まさ江
衣装
清水寿美子
編集
山崎梓
音楽
tofubeats

キャスト
東出昌大 丸子亮平/鳥居麦
唐田えりか 泉谷朝子
瀬戸康史 串橋耕介
山下リオ 鈴木マヤ
伊藤沙莉 島春代
渡辺大知 岡崎伸行
仲本工事 平川
田中美佐子 岡崎栄子

解説
4人の女性の日常と友情を5時間を越える長尺で丁寧に描き、ロカルノ、ナントなど、数々の国際映画祭で主要賞を受賞した「ハッピーアワー」で注目された濱口竜介監督の商業映画デビュー作。第71回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品された。芥川賞作家・柴崎友香の同名恋愛小説を東出昌大、唐田えりかの主演により映画化。大阪に暮らす21歳の朝子は、麦(ばく)と出会い、運命的な恋に落ちるが、ある日、麦は朝子の前から忽然と姿を消す。2年後、大阪から東京に引っ越した朝子は麦とそっくりな顔の亮平と出会う。麦のことを忘れることができない朝子は亮平を避けようとするが、そんな朝子に亮平は好意を抱く。そして、朝子も戸惑いながらも亮平に惹かれていく。東出が麦と亮平の2役、唐田が朝子を演じる。

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映画『寝ても覚めても』の感想&解説(ここからネタバレあり)

ではまずうんこ度(このサイトではどのくらいつまらなかったかで評価してます。ダメ映画=10.0点)

2.5/10  死に取り憑かれた女がこの世に戻るまでの映画

「何言ってんだ、こいつ」と思われそうですが、僕にはこう見えたんですよねえ。

確かに恋愛映画なんですけど、恋愛映画という1つのカテゴリーに収めるのは間違いだと思わせる不穏な雰囲気が全編漂っておりましたよ。

さすが黒沢さんの元で映画論なんかを聞いたと思われるだけあって、立教系を思わせる普通じゃない演出が光っていました。

一般的な邦画の恋愛ものや、ティーンが観るような少女漫画の映画化を見慣れている人の中には、想像と違う雰囲気や展開にポカーンとなってしまう人が絶対いますよね。
しまいには朝子の行動が理解できないとか言って怒りだすアホまでいそうです。
映画館にデートで行った若いカップルはその後の食事でこの映画の話はほぼしないだろうなと思うとニヤニヤしてしまいました。
そんなところも黒沢さんの映画を彷彿とさせます。

劇的な出会いショット

僕はまず冒頭の朝子と麦の出会いにガツンとやられてしまいました。
まずというかこれがこの映画の1番いいシーンだったかなあ。

どういう出会いだったかというと
写真展を鑑賞した帰りに川沿いの道で少年たちが仕掛けた爆竹(花火?)の音に導かれて、朝子と麦は振り返り煙越しに視線を交わします。
次に足元のみが映され麦は朝子の下に歩き出します。
そして麦は名前を尋ねると突然キスし、朝子もそれに応じます。

(C)2018「寝ても覚めても」製作委員会/COMME DES CINEMAS

 

素晴らしかったですね。
映画でしか出来ない劇的な出会い
映画で劇って変な表現ですが、とにかくこれ以上ないような刹那的な表現が良かったんですよねー。
スローってあんまり好きじゃないんですが、このシーンはゆっくり立ち込める煙だけでなく走り去る少年たちが劇的さを更に強調していたと思います。
気持ち悪いんであまり恋がどうこうとか言いたくないですけど、人を好きになる時ってだんだんその人を知っていっていつの間にかパターンと、一目惚れに近い一瞬で好きになるパターンと二通りある気がするんですよ、たぶん、知らんけど。
僕はどちらかと言えば後者の方が多い気がするんですよね、だからけっこうその瞬間を映像として覚えています。
衝撃を受ける感じ。
この出会いのショットはそれを上手く視覚的に表現していると思うんですよ。
後々の展開込みで考えると、「恋」というある意味での「死」に取り憑かれてしまった瞬間の劇的さを視覚的に表現しているんです。
死神麦ですね。
まあだから僕は言葉を交わさずいきなりキスでも良かったと思うんですよね。

この映画で濱口さんは役者に本番まではとにかく繰り返しニュアンスを抜いてセリフを練習させ、本番で感情を込めさせたらしいんですけど、ここの麦のセリフは自主映画のセリフのような気恥ずかしさが出ちゃってる気がしましたね。
ちょっと笑っちゃいそうでした。
まあ東出昌大ではなくても誰が言っても難しいセリフだし、シーンですよね。
その後友達の岡崎が劇中言いますが、本当にあり得ないような馴れ初めですから。
この出会いのシーンを受け入れられたかどうかでこの映画全体の印象が大きく変わったんじゃないかと思います。
ここを受け入れられなかった人は最後まで乗れずに終わっちゃうんじゃないかなあ。

台詞の言い回し

先述した台詞の言い回しも好き嫌いがかなり分かれるところですよね。

練習ではニュアンスを抜き、本番で感情を込めさせる演出をしたと聞いたんですけど、出来上がった映画を観ても主演の2人は特に感情を込めていないというか、いわゆる演技をしていないように聞こえるんですね。
悪く書くとそれこそ棒読みに聞こえなくもない。
更に二人とも関西弁が混じるから更に自然には聞こえない。

難しいな…
なかなか言いたいことがうまく言葉に出来ないんですが、所謂僕らが一般的に考えるようなもっともらしい演技、自然に見せようみたいな演技をしていないように聞こえるんです。
もちろん演技ではあるんですけど、演技であることを製作する側も演じる人間もはっきり自覚した上での演技といいますか…
そうすることで1つの台詞にいろんな解釈が出来るし、見る人によっていろんな感情に見える気がするんです。
ちょっと機械的にも見えるんですが、すごく世界が広がるように思えます。
古くは小津安二郎の映画にも通じる気がします。
あれは台詞のテンポ重視でなってる気もしますけど、こういった意味合いもあったんじゃないかと個人的には思うのです。

あとこれはそもそもいわゆる演技が下手な人にも有効な気がします。
あくまで個人的な意見ですけど、演技が下手な人がニュアンス込めて演技しようとすると、目も当てられないものになりがちです。
それをこの手法は見事にカバーしてくれる気がするんですよね。
「演じるな、とりあえず台詞を何も考えず言ってくれ、頼む」という演出。
その方がマシだという笑
冗談に聞こえるかもしれませんが、そうでもないんです。
特にテレビドラマの演出ですけど、やりすぎな演技に仕上がっていること多いですよね。
ものすごくオーバーにとにかく言葉に感情をのせようとします。
まあそもそも台詞が酷いんで、0に何かけても0なんですけど。
だから僕は「演じるな、そこに存在しろ」というのはすごく映画には合った演出だと思うんですよね。
全然濱口さんはそこまで仰ってはいないんですけどね。

「セリフを発し画面に存在している」という意味においては唐田えりかも東出昌大もすごく良かったです。
特に唐田えりかの「流されて生きてそうな穏やかな空気の中に垣間みえる強さ」みたいなものを強く感じまして、そのおかげでこの映画のびっくり展開も違和感を覚えることなく観れました。

死神に取り憑かれた女

この映画における麦というのは本当に現実に存在しているのかどうかすら怪しく感じる、非日常性を帯びた存在です。
突然いなくなり、そして突然現れ朝子を連れ去ろうとします。
麦と同じ顔をした亮平との幸せを選択したはずの朝子は、麦に差し出された手を驚くような速さで握りその場を立ち去ります。

この時の目的地が不明なまま進む車は不穏な空気全開です。
少なくとも幸せに向かっているようには見えないんです。
やがて2人はものすごく高い堤防のある海辺にたどり着きます。
早朝と思われる青い画面は大変美しいんですけど、どこか非現実的で禍々しいイメージが死後のように見えるんです。
その前の友人マヤとの電話で朝子は全てを捨てる決意をしています。
これまで築き上げた現実的で確かな生活を全て捨てようとするんです。
周りのことを冷静に考えているようで、全然考えられていないこのフワフワした状態はある意味「死」だと思うんです。
亮平との暮らしが正解だとか幸せだとか言い切れませんが、少なくとも確かに映画はそれまでの幸せを映していたんです。
確かに存在していると確信を持てる亮平との時間を。
そう考えると、もしあのまま一緒に車を出て麦と海を見ていたら朝子は本当に死んでしまったんじゃないか、そんな気さえしてきます。
麦という存在にはミステリアスというだけでなくそういう暴力と死のイメージが漂っています。
冒頭から人を突然蹴るし、バイク事故起こすし、終盤迎えに来る時の服装はまるで白装束ですしね。

また海はこの映画が東日本大震災を扱っていることを考えると死を匂わせるイメージがわきます。
堤防を登り海を見つめ歩き出す朝子の姿は現実に立ち戻る様子を表しているようで印象的なショットでした。

東日本大震災つながりで思い出したのですが、劇中に東日本大震災が起こることで亮平と朝子は結ばれます。
その様子は冒頭の朝子と麦の出会いのシーンに対応しています。
同じように映し出される足元ですが、今度は朝子が近づいていく方なんですね。
もちろん朝子はこの突然降り掛かった地震によって亮平の大切さに気づいたんでしょうけど、後々の展開を考えるとそれと同時に天災のような麦の死神的な役割に目覚めてしまったようにも見えてきます。
だって突然亮平は朝子を失うわけですから。
これもまたある意味で亮平にとっては「死」なわけです。

で2人が見つめる川の景色は朝子と亮平で異なっているようだからです。
川の流れがこれからを表していると安易に捉えていいのか分かりませんが、少なくとも希望がないわけではないようです。
まあそもそもあのラストショットって本当に川を見ているのか怪しいですよね。
特に亮平の方はもっと上の方を見ているように見えます。
そう考えるとまたもや不吉なショットにも見えてきたり…

万田邦敏『unloved』

亮平が会社のビルの踊り場でタバコを吸うシーンがあるんですが、そこで印象的なのが雨を確かめるために手の平を上に向けるんです。
これって確実に万田邦敏監督作の『unloved』ですよ。

(C)2018「寝ても覚めても」製作委員会/COMME DES CINEMAS

雨は大切な演出でしたけど、絶対手のアップで雨を表現する必要はなかったですもん、あのシーン。
よくよく考えるとこの映画も女1人に男2人の恋愛モノだし、この外階段での告白シーンやラストの川沿いの追いかけっこの上下の高さを活かした演出は万田邦敏の影響なんじゃないかと思えてきます。

だから何だと言われそうですが、実は黒沢さんより万田さんに影響されているんじゃないかと思えたんですよね。

はい、それだけです。

でもだとしたら万田さん嬉しいだろうなあ。

 

おわりに

一見ただの恋愛モノのようですが、それとはまた違う次元で物語が語られててすごく楽しめました。
映画でしか出来ない語り方が満載でした。

それにしても今1番気になっているのは、ラストの川沿いで朝子が亮平を追いかける超ロングショットの画。

きれいに曇っていた画面が朝子の動きに合わせて晴れていくんですよ。

あれって加工した映像ですよね?

本当だとしたら奇跡のような画ですけど、すごく微妙なところなので、感動も今ひとつ爆発しないでいるんです。

誰か教えてくれー

あ、あと音楽がtofubeatsなんですけど、僕はかなり好きなんです。
特に『衣替え feat. BONNIE PINK』て曲が頭に映像が浮かんでくるとても雰囲気のいい曲なんで聞きまくっているんです。
でもちょっと彼の曲は個性が強すぎて…
僕全然観るまで知らなかったんですよ、tofubeatsが音楽だって。
でも観たら一発で分かっちゃいますよね…
あんまり映画音楽には向いてないなあ…
そう思っちゃいました。

 

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